本の著者は、一字一字文字を埋めていくわけで、それに付き合っていると、著者が本を書いたのと同じだけの時間、読むのにかかってしまう。もちろんいい本は、そうやって読むのが正しいと思うが、とりあえずだいたいどんなことが書いてあるか知りたいという場合、「目で行を追わない」というのがポイントなのだな。
行を追ってしまうと、著者に付き合うことになってしまう。そうではなく、ページを絵を見る時のように、眺めるようにする。視線は絶対行を追わずに、ページの中を自由に移動する。そうすると、いろいろな文字が目に飛び込んできて、それはランダムな順番だったりするのだが、それだけでけっこう、だいたい何が書いてあるかわかる。それで気になる文字を見つけたら、そこだけ詳しく読むようにすればいいのだ。
「何が書いてあるかわかる」と書いたが、正確にいうと、「何が書いてあるかを想像する」ということに近い。著者が書いたものを一字一句追わずに、ランダムに飛び込んでくる文字をもとに、こちらで勝手に想像して、「なるほどこういうことか」とか、「ふむふむだいたいわかる」とか決め付けながらページをめくっていくわけだから、できればていねいに一字一句読んで欲しかろう著者との綱引きが繰り広げられることになり、結構疲れる。おかげで眠くなることもないわけだ。もちろんそうやって斜め読みした結果、面白そうだということになった場合は、2度3度と読むことになる。
しかしこれは新しいな。僕はこれまで誰かと付き合うという場合、徹底的に付き合うか、またはまったく関係を断ち切ってしまうか、どちらかになりがちだったのだが、これはその人、この場合は著者と、ある距離を保ちながら関係は続けるということになるわけだ。
まあしかし、そんなこと、新しいと思っているのは僕だけで、みんな普通にやっていることなのだから、それが僕にとって新しい発見であるということは、人付き合いの才能が根本的に欠けているということなのだな、たぶん僕は。