いつも仕事をしに行くカフェの、いつもすわる一番隅の席で、
ノートパソコンを開いて仕事をしていたら、
若い女性がぼくの隣にすわった。
気配を感じてそちらを見ると、
若い女性はさっきまで入口近くのカウンターで仕事をしていたカフェの店員で、
仕事が終わったのか、私服に着替えている。
女性はぼくを見ていた。
少しの間モジモジしていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「私、あなたのことが前から気になっていたんです。
お話しさせてもらえませんか?」
これはウソのようだが、本当の話である。
山口百恵に似た20代後半のその女性は、
昼間から毎日カフェに来て、
ノートパソコンを開いて何やらしているぼくに興味を持ち、
「何をしている人なのだろう」と思っていたのだそうだ。
それでも普段なら、声をかけたりはしなかったかもしれないが、
旅行帰りで気持ちが高揚していたこともあり、
「仕事が終わるまでもしまだいたら、声をかけてみよう」
と思い立ったのだとのこと。
若い人、しかも女性に声をかけられ、嬉しくないわけがない。
コーヒーを一杯おごって話を聞くと、
山口百恵は路上で人のために言葉を書くのが本業で、
来年は日本全国を野宿をしながら回り、再来年は世界一周をして、
そのあとカフェを開きたいと思っているという。
「20代のうちにたくさんの出会いを経験したいと思っているんです」
と話す山口百恵は、その言葉通り、
ぼくに声をかけてくるくらいで、かなり積極的なタイプに見える。
「この子と酒を飲んだら面白いだろうな・・・」
そう思って四条大宮の飲み屋の話をしてみると、
「ぜひ行ってみたい」
との反応。
「このあとは時間もある」と言うし、
一緒に四条大宮へ繰り出すことにした。
まず行ったのは、いつも行くバー「スピナーズ」。
カウンターにはバーテンのコウイチ君と、
寺島進に似た30代の男性がいる。
その場にすぐに溶け込み、話が盛り上がる山口百恵。
「行きつけのバーが欲しいと思っていたんですが、
ここは私にピッタリだわ・・・」
スピナーズでひとしきり話をしたら、
食事をしに「酒房京子」へ。
遅い時間に行くと、食べ物が全部なくなってしまうこともある京子だが、
昨日はまだ早かったので、色々出してくれた。
昨日もどれもうまかった。
サバは白みそ仕立ての汁で煮てあり、
ご飯はハモとさつまいもが炊き込まれ、
ポン酢醤油がちょこっとかかっている。
酔いが回ると、もちろんカラオケ。
山口百恵は、尾崎豊を歌っていた。
すぐに場に溶け込む山口百恵を、京子さんも気に入った様子。
「今度、9人の予約が入っているんだけど、
その日、お店を手伝ってくれへん?」
山口百恵に尋ねている。
「ぜひやらせていただきます!」
山口百恵もうれしそうだ。
山口百恵は、11時過ぎに帰って行った。
ぼくもそれで家に帰ればよかったのだが・・・。
帰れるわけがないのである。
息子とさして年が変わらない若い人に、
いくつかの新しい出会いを演出できたうれしさで、
気持ちが高ぶっていたぼくは、
酒房京子で知り合った他のお客さんと意気投合。
さらにKaju・・・、
小料理とき・・・、
近くの店を、はしご酒。
スピナーズでシメるつもりが・・・、
バーテンのコウイチ君と、さらに王将・・・。
すっかり明るくなってから家に帰った。
またやっちゃったね。
アホすぎるよな。