昨日のおっさんひとり飯は・・・。
イカワタ味噌炒め。
それにオクラととろろ昆布の吸物、ナス塩もみおかかカラシ酢醤油、
焼き万願寺おかかポン酢醤油と、冷奴一味ポン酢醤油。
昨日は真っ茶っ茶の新鮮なスルメイカが魚屋に並んでいて、
見た瞬間、即座にこれを買うことに決めた。
スルメイカは、茶色の色が濃いのが新鮮なのだが、昨日のは、
いつにも増して色が濃く、若大将も
「今日のは新鮮ですよ」
と太鼓判を押していた。
新鮮なスルメイカが手に入ったら、やはりワタを使うに限る。
イカワタを使った料理として、ぼくが知るかぎり最も手軽でうまいのは、
檀一雄の「イカのスペイン風」なのだけれど、
これはニンニクを使い、かなり強烈な味がするから、
和食の献立に混ぜてしまうと、他の料理を蹴散らしてしまうことになる。
そこでこのイカのスペイン風を、やはりイカワタと相性がいい味噌を使い、
「イカの和風」にすることは、これまで何度も挑戦してきたのだけれど、
そのたびに、決して不味くはないのだけれど、
「やはりスペイン風の方がうまいな」
ということになっていた。
ところが今回、イカの和風が、イカのスペイン風にも匹敵すると思える程
おいしくできた。
コツはゴマ油を使うことと青ねぎをたっぷりと入れることで、
素麺の上にのせると更にうまい。
この料理では、イカはさばく必要がないので非常に手軽にできるのだ。
イカは胴の内側にタテに入っている軟骨と、足の根元にあるクチバシ一対
だけを取り除き、あとはハシから足はぶつ切り、胴は輪切りにする。
器に入れ、一つまみの塩と酒少々を揉み込んで下味をつける。
下味をつけて15分でも30分でも冷蔵庫においておけば、味がしみて
おいしくなるが、べつにすぐ使ってもかまわない。
フライパンにゴマ油と輪切り唐辛子を入れて強火にかけ、
下味をつけたイカ、ざく切りにした青ねぎ3~4本を入れる。
30秒ほど炒めてイカがピンク色になってきたら、
味噌と酒、みりん、砂糖を大さじ1、おろしショウガ小さじ1の合わせ調味料を入れ、
さらに少し炒めて調味料が絡みついたら火を止める。
味噌は、ぼくは赤だし味噌(豆味噌)を使うけれど、
普通の味噌でも問題はないと思う。
固めにゆでて水で洗い、熱湯で温めた素麺の上にのせる。
生臭みなどは全くなく、青ねぎがまたいいアシストになっている。
オクラととろろ昆布の吸物も、簡単なのに美味かった。
かつお節ととろろ昆布、うすく小口に切ったオクラをお椀に入れ、
熱湯を注いでうすくち醤油と塩で味つけする。
オクラととろろ昆布のネバネバ具合がいい。
昨日は晩酌前に、四条大宮のいつものバー「スピナーズ」へ行ったら、
竹野内豊似の男性と隣り合わせ、料理の話になった。
竹野内豊似の男性は、
「料理の手間と、さらに皿洗いの手間がかかるのが面倒で、
自炊をしていないんですよね」
と言う。
皿洗いに関しては簡単な話で、
「洗剤を使わなければいいんですよ」
と教えてあげた。
水洗い用のスポンジを使えば、今は給湯器でお湯も出るのだし、
油汚れもかなりのところまで落ちる。
ひどい油汚れは紙で拭き取ってから洗うようにすればいいし、
洗い終わった時点で多少ベトベトしていても、
最後にふきんで拭けば、ベトベトはほぼ完全になくなる。
洗剤を使うと、洗剤で洗って、さらにその倍くらいの時間をかけて、
すすがないといけない事になる。
お湯だけで洗えば時間は3分の1に短縮できるから、
皿洗いも大した手間ではなくなる。
「なるほど、そうなんですね・・・」
イケメンで、性格もよい竹野内豊は、感心したように相槌を打つ。
「でも自炊をするようになると、やはり最低でも1時間くらいは、
余分に時間が取られるようになるんですが、
『料理』はそれだけの時間をかけても、価値のあることだと思うんです・・・」
ぼくはさらに、料理についてのウンチクを、竹野内豊に披露した。
自炊をすれば、まずは健康にいい。
結局のところ体が欲しがるものを食べる事が、
必要な栄養を取ることにつながるのだとぼくは思う。
体が欲しがるものを食べるためには、
自分で料理を作るのが一番まちがいがない。
次に料理は、面白い。
食事は生きている限り全ての人間が、毎日しなければいけないものだから、
膨大な数の人が、毎日料理を作ることに携わっている。
さらに人間は、それを人類誕生以来100万年、
もちろん程度の差はあるにしても、営々と続けてきている。
だから料理を「文化」として捉えた場合、
料理は、一部の専門家や趣味人だけが行うものとなっている
音楽や絵画等の芸術や、その他あらゆる文化と比べて裾野が広く、
その分、その内容も、幅が広くて奥が深いとぼくは思う。
料理をするという事は、そのような文化に触れ、
そこから何かを学ぶ事なのだから、
それが単なる労働などである訳がない。
大きな喜びともなり得る事なのだ・・・。
「なるほど、言われてみれば、たしかにそうですね・・・」
竹野内豊は、感心したように肯いている。
さらにぼくは、竹野内豊は結婚が決まっているというから、
一つ、付け足した。
「それに男が料理が出来るということは、家庭での自身の独立を
保つことにもつながるんですよ・・・」
自分で料理が出来なければ、誰かに料理をしてもらわなければならない。
それが奥さんであるとするならば、家で奥さんがいなければ、
自分は何も食べられないという事になるのなら、
それは奥さんに、隷属しているという事だ。
だから結婚したら、男性は料理ができて初めて、
奥さんと対等な、お互いに独立した関係になれる。
奥さんに自分の作った料理を食べさせれば、
場合によっては尊敬などされる事もあるかもしれない・・・。
「なるほど、そういう物なのかも知れないですね・・・」
竹野内豊は苦笑している・・・。
「また若い人に説教して、迷惑かけたんじゃないだろうね。」
昨日は大丈夫だったと思うけどな・・・。