昨日のおっさんひとり飯は・・・。
イカめし。
魚屋へ行ったらうまそうなスルメイカが出ていて、
その時までは鯛のアラを炊き込みご飯にしようと思っていたのだが、
気が変わり、イカを炊き込むことにした。
イカを和風の炊き込みご飯にしてもいいものか自信がなかったので、
魚屋のおばさんに聞いてみると、
「イカの胴にお米を詰めて炊いたりもするから美味しいでしょう」
との答え。
個人商店で買い物をすると、こうやってちょっと聞いたりできるのが
いいとこなのだ。
まずはイカをさばく。
イカをさばけない人は、スーパーでさばいたのを買っても問題はないが、
イカをさばくのはすごく簡単だから、ぜひやってみたらいいと思う。
胴に手を突っ込み、胴と中身がくっついている部分を
指がとどく範囲で外し、中身を引きぬく。
中身は目から上を切り落とす。
生ゴミは、冷凍しておくと臭わない。
堂にタテに入っている軟骨を折らないよう気をつけながら抜き、
足の根元にある一対のクチバシを取り外す。
胴は輪切りに、足はぶつ切りにする。
鍋にだし昆布を敷き、研いでザルに15分ほど上げておいた1カップの米、
刻んだ油揚げ、ささがきにして水にさらしたゴボウ、うすく切った竹輪、イカ、
それに水1カップ、酒とみりん、うすくち醤油各大さじ1、塩小さじ1/2を入れる。
フタをして、中火にかけ、湯気が勢いよく出てきたら弱火に落として10分炊く。
そのあと火を弱めて5分、さらに火を止めて5分蒸らす。
ご飯は、鍋で炊くほうが、工夫の余地があれこれあるから楽しい。
土鍋でなく、普通の片手鍋でもおいしく炊ける。
刻んだ大葉をのせて食べる。
イカの香りがふわっと広がり、最高にうまい。
晩酌の支度をしていたら、いつも行くバー[スピナーズ]のマスター
キム君から電話が入った。
「イタリアから、高野さんのブログを見たという女性がいらしてるんですが・・・」
昨日は家で晩酌するつもりにしていたが、
イタリアから京都へ来て、貴重な一晩を四条大宮で過ごそうと考えるのは
ただ事ではない。
晩酌を早めに終わらせ、スピナーズへ出かけることにした。
スピナーズへ行くと、女性はぼくの顔を見るなり叫び出した。
「わ、本物の高野さんだ、わ、どうしよう・・・」
松下由樹に似た40代のその女性は、イタリア人のご主人とイタリアに住み、
ぼくのブログをもう数年にわたり、毎日見てくれているのだそうだ。
檀一雄が好きで、そこからぼくのブログに辿り着いたそうだが、
「高野さんは現代の檀一雄ですよ・・・」
身に余る褒め言葉をいう。
「いやぼくなんか、まだモロボシ・ダンくらいなものですから・・・」
ぼくは意味の分からない謙遜をした。
「私、今日はぜひ高野さんに言いたいことがあるんですよ・・・」
松下由樹は、こちらを向き直り、身を正した。
「高野さんは『パリで死にたい』と言っていますけど、
パリよりは四条大宮のほうが、よっぽどいい街ですよ。
ぜひ大宮で死んでください!」
海外に住む松下由樹は、日本は世界のどこよりもいい国なのに、
日本人が外国にたいしてコンプレックスを持っているのが
もどかしくて仕方がないのだそうだ。
「日本人には、ぜひもっと自信を持って欲しいんです。」
松下由樹は、熱く語る。
たしかにぼくは、フランスへ移住したいと考えたとき、
まだ四条大宮に、今ほど愛着を感じていなかった。
今では大宮の街は、ぼくにとって自分の家のようになりつつあるから、
「そこで死ぬのも悪くはないかもしれないな」
と少し思った。
松下由樹は、スピナーズへ来る前に、
[酒房京子]へも立ち寄ったのだそうだ。
でも外から気配をうかがってみると、おっさんがカラオケを歌っていたので、
女性一人では入ることができなかったとのこと。
そこでスピナーズが昨日は1時で閉店になったのを機に、
酒房京子へ移動することにした。
せっかく大宮へ来たのだから、酒房京子へはぜひ行ってほしい。
酒房京子はおっさんの団体はもうとうに引けたようで、
お客さんは若めの男女3人組だけだった。
松下由樹は「ハモの炊き込みご飯」が食べてみたいとのことだったが、
昨日はハモはないとのこと。
でも京子さんは、代わりに別の炊き込みご飯を作ってくれた。
ナスとキュウリの炊き混ぜご飯。
これはとても手が込んでいて、作り方を聞いたら、
まず油揚げとゴボウを入れてしょうゆ味のご飯を炊き、
そこにちりめんじゃこと、塩もみしたナスとキュウリを混ぜ込んだという。
大変うまかった。
さらに早い時間に作り、余って冷えた炊き込みご飯に番茶をかけたもの。
ご飯は、サバ缶を炊き込んだのだそうだ。
これもすごくうまかった。
京子さんの出す料理を食べ、カラオケを歌って、
松下由樹は満足して帰って行った。
タクシー乗り場まで見送ったぼくが
「ぼくもこれで、そろそろ帰ろう」
と思って酒房京子へ戻ってみると、ダイニングバー[Kaju]のマスター
カジュさんと、熊の男性がいる。
言うまでもなく、「また飲み直そう」という話になり、
結局店を出たのは午前5時。
大宮の街は、すでに白み始めていた。
「相変わらずのお調子者だね。」
バカ者だよな。