2011-11-29
ロシアの漁師がつくる魚のスープ。
「鮭のウハー」
ロシア風の魚のスープ「ウハー」については、檀一雄も書いている。
ハバロフスクで檀がごちそうになったウハーは、鯉と川鱒が筒切りになったスープが、洗面器ほどの大きさの皿に入れられていた。
大ぶりに投げ入れられた、ジャガイモと玉ねぎ。ウクロープ(ディル)の葉が青くちらされ、ひまわり油のにおいが広がっている。
コップにはウォッカ。それで「乾杯」ということになる。
私もロシアで、ウハーを食べたことがある。
ウラジオストックで滞在していた家の、ロシア人の夫妻が、川釣りに誘い出してくれたときのことだ。
極寒のアムール川は、すっかり凍りつき、高速道路と化している。その上をロシア人は、チェーンも履かず、夏タイヤのまま、猛スピードで飛ばしていく。
氷上に、地元の漁師が魚をとるために、大きくあけた穴がある。そこで私も、釣りをさせてもらったが、自分では一匹も釣れなかった。
しかしその日の朝に、漁師がとった魚があるからと、その魚でつくったウハーをごちそうになったのだ。
屈強な漁師が、小刀で魚をさばいていく。
筒切りにし、水にひたして血抜きする。
それをドカドカと、大きな鍋にいれ水を張って火にかけて、そこに檀の表現どおり、大ぶりに切ったジャガイモと玉ねぎが投げ入れられる。
味付けは塩と、ディルの塩漬けだけ。アクもとらない。
煮上がったウハーを、ウォッカをあおりながら食べる。これがうまい。
上質な魚のうまみが、しみ出すだけしみ出したスープ。
ウハーはもともと漁師の料理で、その日にとれた魚でつくらないと、ほんとのウハーではないのだそうだ。
日本の家庭で、その日にとった魚が手に入ることは、そうそうないわけだから、「ほんとのウハー」でなくなるのは仕方がない。
魚は鮭やタラ、そのほか白身魚なら何でもよい。あらが手に入ればなおよいが、切り身でもかまわない。
これをぶつ切りにして、鍋にいれる。
あとは大きく切った、ジャガイモと玉ねぎ。ニンジンや大根をいれてもいい。
その日にとれた魚なら必要がない、ローリエ1枚。ニンニクひとかけ。
ディルはスーパーなどではなかなか売っていないから、手に入らなければ、パセリやイタリアンパセリで代用する。
これらをすべて、鍋にいれ、ひたひたに水を張って、火にかける。
ロシアの漁師は、ディルをいっしょに煮込んでいたが、好みであとから振りかけるようにしてもよい。
アクをとり、塩をふって、10分ほど煮込んで出来あがり。
ロシアでは、気取った食べ方をするときには、はじめに魚だけ煮込み、スープを濾しとり、そのスープで野菜を煮て、魚をメインに、スープとは別に食べるそうだ。しかしもちろん漁師風に、ごった煮のままでかまわない。
好みでレモン汁や黒コショウ、バターなどをいれ、味を変えてもよい。
酒はもちろん、ウォッカが最高だが、白ワインや、日本酒でも、おいしく食べられる。
「ウハー」は、壇一雄は「ウーハー」と表記しているが、そのほうがロシア語の音に近い。
「ウ」にアクセントがある。