檀一雄は、マドリッドである晩はいり込んでいった安食堂の、カウンターの上にあった酒の肴として、いくつかは「檀流クッキング」で、作り方を紹介しているのだけれど、名前だけ記しているものもある。
「・・・イワシの酢漬け。マーシュロムの油漬け。ムール貝のニンニク、トンガラシ焼き。タニシのような小貝の塩ゆで。・・・イカのフライ。・・・」どれも何とはなしに、うまそうな感じがするわけで、昨日はこの中から、材料も手に入りやすく、わりと簡単に作れそうな、「イワシの酢漬け」と「トウガラシ焼き」を作ってみることにした。
まずは「イワシの酢漬け」。
スペイン風イワシの酢漬けは、ネットをさがすといくつかレシピが見つかるのだけれど、それぞれでやり方がかなり異なる。しかし大まかにいえば、
「開いたイワシを、酢とオリーブオイル、ニンニク、トウガラシに漬け込む」
ということになるようだ。
酢で漬けるとき、オリーブオイルを一緒にいれるやり方と、あとからオリーブオイルをかけるやり方とがあるのだが、酢で漬けるとき余計なものをいれると、魚がしまるのに時間がかかる元となる。そこで今回は、まずシンプルに酢で漬けて、そのあとオリーブオイルをかけることとした。
イワシはそろそろ、旬も終わるころと思うけれど、相変わらずよく太ったうまそうなのが売っている。
まず水でよく洗う。イワシにはうろこが付いているから、それをよく指でこすり落とすようにする。このときとがったヒレを、指に刺さないよう注意。
包丁で、背ビレと腹びれを切り落とす。
胸びれといっしょに頭を落とす。
手で腹を引きさき、ハラワタをかき出して、水でよく洗う。
ここから「手開き」をする。イワシは小さいし、身がやわらかいから、コツをつかめば、手で簡単に開くことができる。中骨や腹骨の細かい骨も、残らずいっしょに取れてしまうので、包丁を使ってしまうより全然ラクだ。
この写真は、カメラをもつ関係上、左手でやっているように写してあるが、もちろんほんとは右手でやる。
コツの第一は、「爪」をうまく使うことで、まず右手親指の爪で、腹から尾びれまでを切りさいていく。そして中骨を親指でおさえ、中骨と身のあいだに親指の爪をさし込むようにしながら、中骨と身とをはずしていく。中骨の左右両側が身からはずれたら、中骨を親指と人差指でつまむようにして、中骨を身から取りはずす。
イワシは身がやわらかいので、身をくずしてしまわないよう、ゆっくりやっていく。骨が身からはずれたら、あとは尾びれといっしょに引きちぎる。
開いたイワシは、よく水で洗い、水をふき取っておく。
イワシの表裏に塩をふる。ラップをして冷蔵庫で4~5時間おく。
4~5時間たつと、ベッタリと水がでている。これをよく水洗いし、水をよくふき取っておく。
これを袋にいれ、酢で漬けるわけだけれど、スペインだから当然、「ワインビネガー」で漬けるのだろう。しかし日本でワインビネガーは高いから、ふつうの、いちばん安い穀物酢で漬けることにする。ただちょっと風味をつけるため、レモン汁
を足すようにする。あとはいっしょに、たたきつぶしたニンニクと、輪切りにしたトウガラシもいれておく。
これを冷蔵庫にいれ、「1時間」漬ける。
1時間たったら冷蔵庫から出し、酢をよくぬぐい取って、皿にならべる。ここにオリーブオイルをふりかけ、さらに1時間ほどおく。いっしょに玉ねぎをみじん切りにしたのを加えてみたが、さらにニンニクをみじん切りにしたのを、加えてもよかったかもしれない。
パセリをふりかけて出来上がり。昨日はコリアンダーがあまっていたから、それをふりかけた。
これはうまい。漬け方自体は、日本式にやるのと、まったく同じようにやってみたのだけれど、味付けが昆布や醤油でなく、オリーブオイルやニンニク、玉ねぎなどになると、たちまちスペイン風になる。
このスペイン風イワシの酢漬けの、最高にうまい食い方。
パンの上にのせて食べる。これはほんとに、死ねる。日本で酢漬けの魚を寿司飯にのせるのと、まったくおなじ考え方だろう。
※ 以下の「トウガラシ焼き」ですが、檀一雄は上に引用した文で、「トンガラシ焼き」ではなく、「ムール貝のニンニク、トンガラシ焼き」という料理を示していたことが、いただいたコメントから判明しました。ですから「スペイン風トウガラシ焼き」は、高野の空想のスペイン料理で、スペインに実在するものではありません。悪しからず。
次は「トウガラシ焼き」。
スペインのトウガラシがどんなものだか、知らないのだけれど、昨日は八百屋で売ってた万願寺。これを何もつけずに、そのまま焼く。
焼けたトウガラシを皿に盛り、オリーブオイルと塩をかける。オリーブオイルがかかるだけで、とたんにスペイン風になる。これもさらに、ニンニクをふりかけても、よかったかもしれない。
昨日は「スペイン風サラダ」も作ってみた。
檀流「スペイン風酢ダコ」を作ってみて、これは単純に、「サラダ」に応用できることに気がついたのだ。ネットで調べてみると、実際「スペイン風サラダ」というものがあり、さまざまな材料を細かくきざんで、檀流「スペイン風酢だこ」にいれたような調味料をかけ、サラダにすることが、スペインでは一般的におこなわれているそうだ。
材料は何でもいいと思うが、昨日はレタス。包丁で2センチ四方くらいに切ってみる。
玉ねぎのみじん切り。
ニンニクのみじん切り。
レモンも、身と、皮も少しみじん切りにする。
あと写真をとるのを忘れたのだけれど、トマトも檀流に、「種をとり、皮をむいて」、さいの目に切っておく。
それにツナ缶。
すべてをボウルにいれ、味をつけていく。まず塩コショウ。酢。酢の倍量くらいのオリーブオイル。
これをよく混ぜあわせ、パセリでもふりかければ出来あがり。昨日は、やはりあまっていたコリアンダーをふりかけた。
まさにスペイン風、といいたくなる、明るい表情のサラダ。これはやはり、檀流スペイン酢ダコのように、ゆで卵をいれたらもっとうまかった。ゆで卵は、黄身だけじゃなく、白身もいれてもいいと思う。
野菜は何でもOKで、ピーマンやアボガド、アスパラなども、スペインではよく使われるのだそうだ。(参考)
このところスペイン料理をいくつか作ってみて、日本料理と、ちょっと感覚が似ているところがあると感じる。まず魚介を多く使うのが、日本料理と似ているし、料理法がシンプルなのも、なんだか似た感じがする。何でもかんでもオリーブオイルをふりかけるところも、日本人が醤油をかけるのと、似ているのじゃないかと思ったりする。
昨日はこれらのツマミで、白ワインをコップに2杯。
ちなみに・・・。
昨日の昼飯は、純日本風。