2011-11-24
香味野菜が好きな向田邦子の「ごぼうと牛肉のうま煮」
にんじんの甘みがいっぱいに広がる「にんじんご飯」
向田邦子は、香味野菜が好きだった。
冷蔵庫にはいつも、青じそやニンニク、生姜、レモンを切らさなかった。
わさびも、粉わさびを使うのでなく、本わさびを一本買い、それをすりおろして使っていた。
一時は香菜にハマり、まだスーパーなどで自由に手に入らなかった時代、横浜中華街で、ありったけを買い込んだりもした。
香りの強い野菜が好きだったのは、父親の影響もあったという。
新しいものが好きな邦子の父は、香りのいい、出はじめの野菜が食卓にならぶと、ご機嫌だった。
邦子は横柄な父親に反発しながらも、味の嗜好は受けついでいた。
そんな邦子が作る、ごぼうと牛肉のうま煮。
青じその葉を混ぜこむ。
邦子はこれを、まず青じそを入れず、ごぼうの香りだけで味わい、それからたっぷりと青じそを加えて食べたという。
水にさらした、ちょっと大きめのささがきにしたごぼうを、サラダ油で炒める。
食べやすい大きさに切った牛肉をくわえて炒め、酒、砂糖、醤油で味付けする。
火を止め、青じその葉をたっぷりと混ぜこむ。
ごぼうと牛肉のうま煮。
ごぼうと牛肉を甘辛く炒めたものに、生姜やとうがらし、ゴマあたりを加えるのならふつうだが、青じその葉を入れるというのは、なかなか思いつかないだろう。
しかしこれが、非常にイケる。
青じそが、やはり香りの強いごぼうと喧嘩することなく、ごぼうの味を、さわやかに、引き立てるようになっている。
向田邦子のレシピから、もう一品。
にんじんご飯。
眠くなって仕事に差しつかえるからと、いつもはご飯をかるく一膳しか食べない邦子が、このにんじんご飯だけは、「いけない、いけない」といいながら、いつもおかわりしていたという。
米、4人分なら3カップは、炊く30分前に洗い、ザルに上げておく。
油揚げ2枚とにんじん1と1/2本は、3センチのせん切りにし、だしカップ1に酒と醤油それぞれ大さじ2、砂糖大さじ1で味付けした煮汁で、サッと煮る。
煮汁は米といっしょに炊飯器に入れ、1割少なめの水加減にする。味が足りなければ、塩と醤油で加減する。にんじんと油揚げを上にのせ、ふつうのご飯とおなじように炊く。
このにんじんご飯、言ってしまえば、ふつうの五目ご飯から、タケノコだの、しいたけだのを抜き、油揚げとにんじんだけを残したものだ。
しかしこうして、一点に集中させるのが、邦子の流儀なのだろう。
たっぷりと入れられたにんじんの甘みが、ご飯いっぱいに広がって、なんとも幸せな気持ちになる。
邦子の料理は、いつでも「主役」が、はっきりと決まっている。
あとは、はまぐりの吸物。
冷や酒を2合。