マミオの好物、トビウオと鶏肉を、惜しげもなくあたえる邦子。食卓には、鶏肉料理がならぶことが多かった。
ところがある日、台湾旅行中の飛行機事故で、邦子が亡くなった。
それから3ヶ月、マミオは檻から出なかった。檻から出たのは納骨のとき。マミオは邦子のお骨のそばを、いっときも離れなかった。
妹の和子に引き取られてからも、マミオは夜中になると、邦子を探しまわった。
そのうち、ある時を境にして、マミオは部屋のなかを、狂ったように駆けまわるようになった。声をかけようものなら、手や足にがぶりと噛みついてくる。和子の手や足は、傷だらけになる。
和子はマミオにむかって言った。
「よーし、やるだけやってごらん。どんなに怒っても、お前の主人はもういない。あたしが新しい主人なのだから、噛みたいだけやってごらん・・・」
マミオは和子の腕を数回噛むと、憑きものが落ちたように、おとなしくなった。それから3年後に天寿を全うするまで、マミオは和子の家で、平和に暮らした。
「向田邦子の手料理」にも、鶏肉料理がいくつか載せられている。
その中から昨日は、「鶏肉のレモン風味炒め」を作ってみた。
4人前だと、鶏むね肉を600グラム。4センチ四方、厚さ5ミリ程度のそぎ切りにする。
塩コショウして、酒をふり、溶き卵1個分、かたくり粉、サラダ油をまぶしておく。塩味はここでしか付けないから、きちんと必要な分の塩をふる。
フライパを熱し、サラダ油をひき、鶏肉をうらおもて、こんがりと焼く。600グラムの鶏肉は、フライパンでは一度に焼けない。焼けたものを皿に取りだし、また残りを焼く。
鶏肉が全部焼けたら、フライパンに酒大さじ2、砂糖少々、レモン汁2分の1個分のタレを注ぎ、取りだしてあった鶏肉を、すべてフライパンに戻しいれる。全体をよく炒めあわせ、皿に盛って、パセリを飾る。
向田流「鶏肉のレモン風味炒め」のできあがり。
焼き鳥屋でも、塩で焼いた焼き鳥に、レモンが添えられることは多い。鶏肉の食べ方として、塩とレモンで味をつけるのは、定番中の定番だろう。
邦子のこの料理は、焼き鳥屋のようにただ塩をふって焼き、レモンを絞って食べるのではなく、女性らしく、もうすこし上品に仕上げたもの。
レモンの風味が、あまり前面に出ず、あくまで控えめにしているのがいい。
さっくりとした衣がついた、やらかなむね肉の食べごたえも、うまい。
「向田邦子の手料理」から、もう一品。
ピーマンの焼きびたし。
何事も、手早いことを良しとする、邦子によれば、
「ピーマンは、ゆでるより、炒めるより、焼くのがいちばん早い」。
縦に割り、種とヘタを取ったピーマンを、しんなりする程度に、直火で焼く。焼けたピーマンは、横にせん切りにする。
醤油大さじ1、出汁か酒大さじ3のタレに、かつを節を加え、ピーマンを和え、そのまましばらく浸けておく。食べるとき、器に盛り、もみ海苔をふる。
あとは、シジミの味噌汁。昆布だしでシジミを煮て、殻がひらいたら、味噌を溶き入れる。ネギの小口切りをいれ、ひと煮立ちさせる。
冷酒を2合に、白めし。