2011-11-22

ひかえめなレモン風味の、やさしい味。
向田邦子「鶏肉のレモン風味炒め」

タイで出会い、日本に連れ帰ったオス猫「マミオ」を、向田邦子は溺愛した。邦子にとってマミオは、下手な男など足元にもおよばない、かけがえのない存在だった。

マミオの好物、トビウオと鶏肉を、惜しげもなくあたえる邦子。食卓には、鶏肉料理がならぶことが多かった。

ところがある日、台湾旅行中の飛行機事故で、邦子が亡くなった。

それから3ヶ月、マミオは檻から出なかった。檻から出たのは納骨のとき。マミオは邦子のお骨のそばを、いっときも離れなかった。



妹の和子に引き取られてからも、マミオは夜中になると、邦子を探しまわった。

そのうち、ある時を境にして、マミオは部屋のなかを、狂ったように駆けまわるようになった。声をかけようものなら、手や足にがぶりと噛みついてくる。和子の手や足は、傷だらけになる。

和子はマミオにむかって言った。

「よーし、やるだけやってごらん。どんなに怒っても、お前の主人はもういない。あたしが新しい主人なのだから、噛みたいだけやってごらん・・・」

マミオは和子の腕を数回噛むと、憑きものが落ちたように、おとなしくなった。それから3年後に天寿を全うするまで、マミオは和子の家で、平和に暮らした。



向田邦子の手料理」にも、鶏肉料理がいくつか載せられている。


その中から昨日は、「鶏肉のレモン風味炒め」を作ってみた。



4人前だと、鶏むね肉を600グラム。4センチ四方、厚さ5ミリ程度のそぎ切りにする。



塩コショウして、酒をふり、溶き卵1個分、かたくり粉、サラダ油をまぶしておく。塩味はここでしか付けないから、きちんと必要な分の塩をふる。



フライパを熱し、サラダ油をひき、鶏肉をうらおもて、こんがりと焼く。600グラムの鶏肉は、フライパンでは一度に焼けない。焼けたものを皿に取りだし、また残りを焼く。



鶏肉が全部焼けたら、フライパンに酒大さじ2、砂糖少々、レモン汁2分の1個分のタレを注ぎ、取りだしてあった鶏肉を、すべてフライパンに戻しいれる。全体をよく炒めあわせ、皿に盛って、パセリを飾る。




向田流「鶏肉のレモン風味炒め」のできあがり。



焼き鳥屋でも、塩で焼いた焼き鳥に、レモンが添えられることは多い。鶏肉の食べ方として、塩とレモンで味をつけるのは、定番中の定番だろう。

邦子のこの料理は、焼き鳥屋のようにただ塩をふって焼き、レモンを絞って食べるのではなく、女性らしく、もうすこし上品に仕上げたもの。

レモンの風味が、あまり前面に出ず、あくまで控えめにしているのがいい。

さっくりとした衣がついた、やらかなむね肉の食べごたえも、うまい。



「向田邦子の手料理」から、もう一品。


ピーマンの焼きびたし。



何事も、手早いことを良しとする、邦子によれば、

「ピーマンは、ゆでるより、炒めるより、焼くのがいちばん早い」。

縦に割り、種とヘタを取ったピーマンを、しんなりする程度に、直火で焼く。焼けたピーマンは、横にせん切りにする。



醤油大さじ1、出汁か酒大さじ3のタレに、かつを節を加え、ピーマンを和え、そのまましばらく浸けておく。食べるとき、器に盛り、もみ海苔をふる。




あとは、シジミの味噌汁。昆布だしでシジミを煮て、殻がひらいたら、味噌を溶き入れる。ネギの小口切りをいれ、ひと煮立ちさせる。




冷酒を2合に、白めし。