2011-11-21

向田邦子が吹聴してまわった味。
「わかめの炒め物」「白菜と豚肉の炒め物」

向田邦子は、新作の料理ができると、すぐに他人に吹聴してまわった。とくに妹の和子へは、しばしば早朝、まだ寝ているところに電話がきた。

「ねぎ雑炊、太らなくていいわよ」
「わかめを炒めるとおいしいのよ」

邦子特有の早口で、言いたいだけ言うと、電話は切れる。

友人たちへも、これはと思う料理は、みずから作って試食を乞い、電話もかけた。



ひととおり吹聴し終わると、邦子自身は飽きてしまう。ところが今度は、友人の家で食事をごちそうになると、自分が教えた料理が、食卓にならぶことになる。

その料理は、自分が教えたものとは、すでに微妙に異なり、その家流の味になっている。

「里子にだした子が、昔の面影をのこしながら、すこし違った子に成長したよう・・・」

得意なような、すこし照れくさいような、不思議な気持ちで、邦子はその料理を味わう。



邦子がひとに吹聴してまわった料理のひとつが、「わかめの炒め物」。


油ハネするわかめを炒めるのに、塚原卜伝のように、鍋ぶたをもちながら炒めるようにと、友人たちに教えてまわったが、それを守らなかったいしだあゆみは、手の甲に小さな火傷をした。

この「わかめの炒め物」を、昨日は作ってみた。



鳴門わかめを、乾燥したものなら固めにもどし、生なら水洗いして、よく水気を切り、3センチほどに切り分ける。



熱したフライパンに、サラダ油にゴマ油を加えたものを、すこし多めに入れ、わかめを炒める。油ハネに注意する。



わかめがヒスイ色になったら、削り節ひとつかみと醤油を入れ、かき混ぜて出来あがり。

とっておきの器に、ほんの少しだけ盛る。




完成した、わかめの炒め物。



このわかめの炒め物、たしかに、うまい。

ゴマ油と削り節の味がきいて、ひと言でいえば、「ふりかけ」のような味。

酒のつまみにいいのはもちろん、ごはんも、これだけで何杯でもいける。

すこし、韓国料理の風情もある。

わかめを炒めるとは、ちょっと意外だが、まさに、正解。

邦子の得意げな顔が、目にうかぶ。



昨日は、向田邦子のレシピからもう一品。


白菜と豚肉の炒め物。



出汁をふくみ、やわらかく煮えた白菜のうまさは、格別だ。

邦子は白菜を、豚肉とネギのうまみが、たっぷり出た汁で炒める。

このレシピでは、酒と醤油で味付けするが、インスタントラーメンの粉末スープと酒で味付けするのもまた良いと、邦子は対談で、阿川弘之に披露している。



4人前の材料は、豚薄切り肉150グラム。白菜1/2株。干しシイタケ5枚、長ネギ1/2本。

豚肉は、食べやすい大きさに切る。

白菜は、葉の部分はざく切り、茎の部分は、味がしみ込みやすいよう、斜め切りをしておく。

干しシイタケは水でもどし、3~4つに切る。

長ネギはみじん切り。



サラダ油で豚肉と長ネギを炒め、醤油と酒各大さじ2を入れる。

白菜とシイタケを入れ、塩少々をふり、よく炒める。

白菜がしんなりしたら火を止めて、酢小さじ1をふりかけ、よくまぜ合わせて、出来あがり。




あとは、鯛のあら汁。

鯛のあらは、おもてうらに塩をふり、しばらく置いて、熱湯をかけ、よく水洗いする。

昆布だしで10分ほど、アクを取りながら煮て、多めの酒と、塩、少しのうすくち醤油で味付けし、豆腐とネギを煮る。




冷や酒を1合半のみ、シメは白めし。