今までならお兄ちゃんに三枚におろしてもらうところだけれど、今日は自分でやってみることに。片身をお造りにし、あらは吸物の出しにする。
まな板の上のツバス。
ツバスはハマチの子で、関東ではイナダと呼ばれる。
三枚おろしは意外に簡単。
ツバスは骨もやわらかいし身もしっかりしているから、サンマやイワシなどよりよっぽどやりやすい。
脂ものって、さすがうまい。
あらはサッと湯通ししてよく洗い、昆布といっしょに15分炊く。
出しをこし取り、酒とうすくちしょうゆ、塩で味付け、大根を煮る。
これはうまい。
臭みもなく、上品な味。
あとはナスのおひたし。
ヘタだけ落としたナスを水でゆで、冷めたらやさしくしぼる。一口大に切りからし酢醤油で和える。
カブの浅漬け。
昆布と塩だけで漬け込む。
和久井映見とは、意見が食い違うことは多い。
先日も道を歩いていたら、和久井映見は四つ角を小走りでわたり、のんびりと歩く僕に向かって、
「車が出たがっているのだから早く来なさいよ」
と言う。
信号のない四つ角、今は左右からも車が来ないし、停止している車が出るにはちょうどいいのだそうだ。
人の多い東京で生まれ育ち、ずっと会社で仕事をしてきた和久井映見、他人への気の遣い方が群を抜いていると僕には見える。
飲食店などでもほかの客のことをじっと見て、席を譲ったり話しかけたりの配慮をする。
さらに返す刀で、
「あなたみたいな気遣いのない人はダメだ」
となる。
「私とはまったく価値観がちがう」
と言われる。
たしかに僕は、その場の空気は読めないし、自己中心的な人間だと自分でも思うけれども、たとえば信号のない四つ角で、歩行者が停止している車の都合にまで気を遣う必要はないのではないかと思う。
車は歩行者がいなくなるまで待つのが交通ルールなのだから、それに従えばいいだけの話ではないのか。
「そう一筋縄ではいかないよ。」
そうだな。折り合いは付けていかないとな。