おっさんの今日の晩酌は・・・。
鯛のあらが大好きなおっさんだが、ちょくちょく食べているとメニューが出尽くしてくる。
かぶと煮、酒蒸し、ちり鍋・・・。
「鯛はさっぱりとしたうまみが身上だから、あまりゴテゴテと味付けするわけにもいかない気もするし・・・」
しかしそういう時のお助けは、魚屋のおばちゃん。
長い主婦歴で身につけた、様々な魚の食べ方を教えてくれる。
「鯛そうめんもおいしいよ・・・」
なるほど、その手があるのを忘れてた。
煮魚は、いっしょに添えるものを変えることでちがった味わいが楽しめる。
まずは下ごしらえ・・・。
あらの下ごしらえは、面倒といえば面倒だけれど、これでおいしくなると思えば楽しくなる。
鯛の場合、皮がはがれてしまいやすいから100度でなく、80度くらいのすこし低い温度のお湯にサッとひたす。
そのあと水でよく洗い、血のかたまりやヌメリ、うろこをていねいに落としていく・・・。
下ごしらえをしたら、さあ煮よう。
「煮汁の量をどうしようかな・・・」
鯛あらの煮時間は、これまで色々やってみた結果10分。
それ以上煮ると、身が固くなる。
魚の煮付けは煮汁を上までまわす必要があるから、火加減は強めの中火。
強めの中火で煮て10分でほぼ煮詰まる煮汁の量は、だいたい1.5カップ。
「でも今日はそうめんを添えるから、多めに煮汁を残した方がいい・・・」
そこで水は3/4カップ、日本酒1/2カップ、みりんとしょうゆは1/4カップ、あわせて2カップ弱になるようにする。
それに砂糖が大さじ3・・・。
ゆでて水で洗ったそうめんを添えれば、鯛そうめんの出来あがり。
あとは水菜と油揚げのサラダ。
そろそろ冬野菜の季節になり、八百屋にもほうれん草、小松菜、水菜などなど菜っぱが色々ならんでいる。
どれにしようか迷った結果、今日は水菜。
サッと焼いた油あげ、ちりめんじゃこといっしょにサラダにする。
ドレッシングはサラダ油に酢、しょうゆに塩、すこしのカラシ、それから隠し味の砂糖。
砂糖をすこし入れると、酢の角がとれて味が丸くなる・・・。
赤ピーマンとズッキーニのグリル。
赤ピーマンは、黒焦げになるまで焼いて皮をむく。
ズッキーニは皮を下にして、皮に焦げ目がつき身が汗をかくまで焼く。
塩をふり、オリーブオイルをかける。
いただきます。
鯛あらは目のまわりのゼラチン質がうまいんだ・・・。
鯛の味がしみたそうめん・・・。
今まで鳴るのを見たことがない和久井映見の携帯電話が鳴る。
ディスプレイの表示を見て顔を曇らせる和久井映見。
「はい」
電話をとり、話しながら部屋をぬけ、ドアをあけて家を出ていく・・・。
30分ほども経ってもどってくる。
「親が心配しているの・・・」
理由も告げず京都での滞在を延長したことを心配する親に問いただされても、和久井映見はまだ自分のこれからをきちんと説明することができない。
「私自身もどうしたらいいかよくわからないから・・・」
夜は四条大宮スピナーズ。
出かけるために着た服を、和久井映見にダメ出しされて着替えるおっさん。
店に入り、珍しく空いていたカウンターの端に2人並んですわる。
今夜はいつものBGMを止め、九十九一似の男性がギターの弾き語りをしている。
和久井映見は、おっさんが2人のことをブログに書くから、九十九一や店の常連さんに敬遠されているのではないかと心配していた。
通りがかった桐島かれん似の女性を呼び止めてたずねる。
「私達、ひんしゅくじゃないのかな・・・」
「そんなことないよ、みんな温かく見守っているって感じだと思うよ・・・」
桐島かれんとの話はさらにつづく。
和久井映見は夏服しかもたずに京都へ来たから、防寒着がない。
「京都では、10月中はどんなものを着ればいいのかな・・・」
「レザーかな。11月はボア付きのレザーや、人によってはダウンを着てる・・・」
おっさんは、和久井映見がほかのお客さんと仲良くなるのがうれしい。
スピナーズのお客さんは皆おっさんと和久井映見が付き合っているのを知っているから、和久井映見がここで世界を広げてくれればくれるほど、2人の関係は逆に強固になるような気がする・・・。
和久井映見はイケメンバーテンのコウイチ君とも話す。
「おっさんと出かけると、自分で調べもせずに人に道を聞いたりするのが恥ずかしいんですよ・・・」
「あ、そうですか、僕も知らないところへ出かけるときは、100メートルおきに道を聞きます。でも和久井さんのおっしゃることもわかります・・・」
おっさんは、和久井映見が自分と2人の時のことを人に話すのを、ニヤニヤして聞いている・・・。
和久井映見がジャイアントコーンを頼んだ。
ジャイアントコーンはおっさんも好物。
「オレ、ミックスナッツもジャイアントコーンだけ選り出して食べるんだ・・・」
「ほんとに。私も。私達って食べ物の趣味が合うよね・・・」
ギターを弾いていた九十九一がおっさんを呼んだ。
「ちょっとおっさんギター弾いて・・・」
九十九一からギターを受け取り、十八番の「レット・イット・ビー」「ヘイ・ジュード」、さらに矢沢永吉「ウィスキーコーク」をうろ覚えの歌詞でうなるおっさん。
「お耳汚ししてすいませんでした・・・」
拍手で送られ席にもどる。
和久井映見にいいところを見せられて、おっさんは鼻高々。
「たしかにギターが弾けることはわかったわ。
でもあんないい加減な歌を人前で歌って、しかもそれなりにウケるところが何だかムカつく」
と和久井映見。
気分がよくなったおっさん、さらに四条大宮Kajuへ和久井映見を連れていき、焼酎水割りを2杯飲む。
酔っ払って家に帰り、録画したビデオを見る和久井映見の脇にあるベッドで眠りにつく・・・。
朝起きると、和久井映見がいなかった。
ガランとした静かな家の玄関に、和久井映見のスリッパがそろえられて置かれている・・・。
昼になり、和久井映見から電話があった。
「ごめんね、でも私、親に心配をかけてまでおっさんの家にいてもいいのか、わからなくなっちゃって。
今夜も行けないかもしれない・・・」
「和久井さんにちゃんと時間をあげないといけないよ」
うん、わかってる。