土曜日は昼酒と決めている。
いや正確にいうと、決めているわけではないのだが、休日の開放感を、どのようにして味わおうかと考えたとき、昼酒以上にいいものを思いつかない。
酒というものは飲んでしまうと、有意義なことは何もできなくなってしまうわけで、昼から酒を飲むと、半日を棒にふることになるわけだが、逆にいえば、それほど贅沢な時間の使い方はない。
この酒のもつ、意義がない、という性質が、日常のストレスを開放したり、損得ばかりを計算していては成り立たない、人と人との心の結びつきをつくり出したり、することに役立つわけだ。
だいたい日本の神道では、神様の前で酒を飲むわけで、酒はそういうとき、日常の生活からはなれて、非日常的な空間をつくり出すということのために、宗教的な役割りまで果たす。
日本人というものは、酒を飲むということにたいして、寛容な国民だとはよく言われるが、逆に厳しいのはアメリカで、禁酒法などという法律をつくったことがあるくらいだから、今はそれほどではないにしても、酒はあまり良くないものだという感覚が、心の奥底にはあるのだろう。
アメリカでは酒を飲む人は、立身出世のコースから外されるとも聞くから、日本の政治家が、手下を集めて夜な夜な酒を飲むなどということとはえらい違いだ。
まあ日本の政治家も、もう少し、そうやって人間関係のことばかり考えないで、政策について勉強してほしいと思わないこともないが、酒というのが日本では古来から、社会を形づくるうえで中心的な役割りを果たしてきたということは、まちがいないことなのだ。
ということを言い訳にして、僕は毎日酒を飲んでいるというわけではないのだが、昨日は昼酒、近所にある酒飲みの聖地、「源八鮨」。
ここへは土曜日にしか来たことがないが、昼からだいたい満席、その100パーセントが酒を飲んでいる。
店内には昔の歌謡曲が流れ、激安価格で、寿司にかぎらず、ありとあらゆるうまいものが食べられるから、たしかに昼から酒を飲むには、うってつけの場所なのだ。
この店で、僕が最近いつも頼むのは、鯖ずし。
半人前で、650円。
いまは鯖は旬だから、脂がのっていてとろけるようで、これはほんとにうまい。
にぎり寿司もあるのだが、それは安いが、ちょっとイマイチで、やはり京都は、基本はこういう押しずしなのだな。
熱燗一本に、この鯖ずしと、にぎりずしを4つ、それに赤だしで、シメて1,900円。
ちょっと食べ過ぎというくらい、腹いっぱいになって、帰って昼寝。
晩めしはカキ鍋。
カキはこの冬は、まだ一度も食べていなかったのだが、スーパーで売ってるカキは、高い上に水ぶくれしていて、去年、広島の市場で買った、ほんとにうまい、激安価格のカキを、たらふく食べてしまった僕としては、どうもあまり食べる気がしなかったのだ。
しかしそう言ってると、一度も食べないままにシーズンが終わってしまいそうだったし、池波正太郎も「そうざい料理帖」で、カキは鍋にしたり、カキ飯にしたりして、しょっちゅう食べると書いているし、スーパーで400円のカキを買ってきた。
ちなみにカキというのは、「生食用」というのと、「加熱調理用」というのの2種類があって、これは生食用のほうが、イキがいいのかという感じがするが、それはぜんぜん違うのだ。
生食用も、加熱調理用も、元はいっしょで、鮮度は変わらないのだが、生食用は、加熱調理用にくらべて、徹底的に殺菌しているということで、そうすると生食用というのは、カキの本来のうまみも、すこし落ちてしまうということになっている。
だからどうせ加熱して使うなら、加熱調理用を買ったほうが、ぜったいにいいのだ。
カキは大根おろしで洗うとかいうが、これはカキのヒダの奥のほうにある汚れを取るという意味なのだろう、まあしかし、そこまで神経質になることもないので、塩をふって揉み洗いし、あとは水を取り替えながらなんどもゆすぐ。
一緒に入れる野菜は、豆腐。
それに長ネギ。
鍋というと、いろいろ入れたくなるものなのだが、一人暮らしの場合、そうするとぜったいに、材料を余らせることになるので、鍋の材料は、思い切って少ない種類にすることがポイントだ。
だし昆布に酒をたっぷりと入れた水で煮るが、カキは煮過ぎると、小さなタコ坊主のようになってしまって、ほんとにまずくなるから、ほとんど煮ない。
一回分ずつ鍋に入れ、しゃぶしゃぶっとして、温まったくらいのところで引き上げる。
こういう食べ方は、狭いテーブルに、材料をならべた皿をあれこれ置いておかないといけなくなるので、これまでは敬遠していたのだが、カキだけは仕方ないのだ。
タレはポン酢だが、市販のポン酢は、甘すぎたり酸っぱすぎたり、なかなか好みに合わないので、醤油にポッカレモン100をたらしてつくる。
甘くなく、醤油の風味がしっかりとして、適度な酸味、これはぜったいにおすすめです。
酒は賀茂鶴の特別純米酒、2合半で飲みきった。
これはうまかった。
最後のシメをどうするかというのが、大きな問題になるわけで、このカキのだしがたっぷりとしみ出たスープ、放っておくわけにいかないことはもちろんなのだが、雑炊やうどんにしてしまうと、酒もけっこう飲んだことだし、食べ過ぎることになってしまう。
そこで吸い物にすることにした。
とりあえず塩だけで味をつけてみたが、それだけだとやはり物足りなかったので、醤油をすこしたらしたら、完璧な味になりました。
めでたしめでたし。