「1~2杯を飲んだら帰ろう」
と思って行く。
ところがそれで帰れた試しはなく、
必ず飲み過ぎてしまうことになるのである。
いつも飲み過ぎることになるのだから、それなら初めから、
「1~2杯を飲んで帰ろう」などと思わなければ良さそうなものだけれど、
スピナーズへ行く前までは、本当にいつも、そう思っているのである。
昨日も帰って晩酌の支度をしないといけなかったし、
そうそうゆっくりしたい気分ではなかった。
しかしこれは一つには、キム君がうまいのである。
ぼくに話をさせるようにうまいこと仕向けるのだ。
昨日は早目の時間だったこともあり、ぼくが行った時にはまだ他には
お客さんはいなかったから、
キム君はぼくに、
「彼女さんとはその後、連絡とかはないんですか」
などと水を向けてくる。
ぼくとしても、それは話したい話題だから、あれこれと喋り出す。
喋り出すとキム君は、また感心したように相槌を打ったり、
いかにも興味がありそうな様子で質問したりなどしながら、
さらにぼくに話をさせるようにする。
年下の男性に、こんなに話を聞いてもらえることなど、
そうそうあることではないわけで、
そうなるとおっさんはどんどん気持ちが良くなり、ますます喋り、その結果として、
お酒をガブガブ飲み、さらにお代わりしてしまうことになるわけだ。
それからさらに、昨日は九十九一が来た。
仲が良い、この九十九一に似た男性は、一通り話しも終わろうかという頃、
店に入ってくるのである。
そうなると、話はまた初めから始まる。
当然、お酒もさらにお代わりすることになる。
しかもスピナーズでは最近、そら豆をつまみに出すようになっている。
200円だから、酒を飲んでいる時にはつまみは食べた方がいいわけだし、
やはり「頼もう」となるわけだ。
ところがこのそら豆が、200円なのにけっこうな量がある。
そうすると、
「そら豆がまだ残っているから」
ということで、お酒をお代わりしてしまうことになる。
スピナーズではこのように、マスターのキム君と、
常連のお客さんとの連携プレーにより、
大して飲もうと思っていなかったお客に酒をがぶ飲みさせるシステムが、
巧妙に作り上げられているのである。
「それただ人のせいにしているだけだね。」
ほんとだな。