2012-06-30
紅鮭のヒズ
今日の晩酌。
肴は、紅鮭あらの焼いたのとナスの塩もみ、インゲンと油揚げの卵とじ、紅鮭のヒズ、農家のおばちゃんの大根ぬか漬け。
檀一雄も「檀流クッキング」の中で、
「酒のサカナにこれほどおいしいものはない」
と書く紅鮭のヒズ。
ヒズ(氷頭)は紅鮭の額から鼻のあたりのところにある軟骨で、これを皮ごとうすく切り、昆布を入れた甘酢に一晩漬ける。
コリコリとしながら濃厚なうまみがあり、これは死ねる。
半分残った昨日のインゲンを、油揚げといっしょに炊く。
インゲンは、塩をふった水でさっと下茹でしておく。
油揚げは熱湯をかけ油抜きする。
出しに酒とみりん、うすくち醤油ですこし甘めに味付けし、インゲンと油揚げを5分ほど煮たら、溶き卵をまわし入れしばらく蒸らす。
インゲンがやわらかく煮えたのも、またうまい。
ナスは、塩もみ。
3ミリほどの厚さに切ったナスに塩をふり、よくもみ込んだら5分くらいおいて絞る。
何もかけなくても十分うまい夏のナスは、たまらない。
酒は焼酎水割り。
昨日は3杯。
キム君のバーをのぞくと、カウンターはぎっしり満員。後ろのテーブル席まで人があふれている。
でもさっき、話す気満々で立ち飲み屋へ行ってみたら、お客さんが誰もおらず肩透かしを喰らい、今度こそはと意気込んできた僕は、念のため店に入ってみた。
「今日は満員やね・・・」
「すいやせーん」
とキム君。
するとカウンターの端にすわっていたカップルが、
「もう帰りますからどうぞ・・・」
ありがたい。
僕はカウンターの端に空いた2席のどちらにすわろうか迷ったが、隣のお客さんに近いほうを選んだ。
カウンターを見わたすと、熊の男性は今日も来ている。
それからいたのが・・・。
熊田曜子似の美人の奥さん・・・。
友達なのだろう、麻生祐未張りの美人の女性といっしょに来ている。
「さすが美人は、美人を呼ぶんだな・・・」
カウンターの反対の端にいる熊田曜子に、僕はカウンター越しに会釈だけした。
焼酎水割りを注文した僕は、早速隣にすわる、カップルの男性のほうに話しかけた。
「こんにちは。ここへはよくいらっしゃるんですか」
振り向いた男性は、年の頃は60歳くらい、横山やすし似で、おしゃれなフレームのメガネをし、白髪の髪を茶色く染めている。
「おう、そうなんや、今日はな、娘と来とるんや」
相手の女性を見ると、たしかに年の頃は20代、目がクリっとしたナイスバディー。
「そうなんですか、いや娘さんがお父さんといっしょにお酒を飲んでくれるなんて、いいですね」
「ウソや」
ウソなんかい・・・。
「ほんとはな、義理の娘なんや」
「あ、そうなんですか、でも義理の娘さんってことは、息子さんのお嫁さんなんですから、そういう女性といっしょに飲めるっていうのも、またいいですよね」
「それもウソや」
それもウソなんかい・・・。
聞くと近くのカフェバーで、隣に居合わせた女性がたまたまキム君のツイッターを見ていて、「キムくんの店へ行ってみたい」というから連れてきたとのこと。
「ナンパじゃないですか、おじさん、いい年してさすがですね」
おじさんがナンパしたというカフェバーの場所をきくと・・・。
椎名林檎のバー・・・。
椎名林檎似の若いママがやっているその店は、僕はてっきり、おっさんは場違いなのだとおもっていた。
こんないい年したおっさんが、若い子をナンパできる場所だったとは・・・。
今度絶対行かなあかん。
そのうち男性の1人客が入ってきて、僕の隣の、カウンター端の空いた席にすわる。
九十九一にも似た、背広をびしっと着こなし若きエグゼクティブ風のその男性が、キム君と話を始めたところに僕も参加した。
車で走っていたら、後ろからパトカーに呼び止められた。
「スピード違反や」とおもって止まったら、「車線変更違反だ」という。
「車線変更は誰でもしとりますやん」と言ったら、「スピード違反は見逃すから、今度から気いつけや」とおまわりさん。
「わかりました、自分なりにがんばります」
と言ったら、おまわりさん、「ぷっ」と吹かはった。
「やった、おまわりさんが吹かはったら、今日一日はもうそれでええわとおもったわ・・・」
さすが、関西の人は、人を笑わせるために生きている・・・。
やがて水割りを飲み終わったので、僕は帰ることにした。
両側の、今夜の話し相手になってくれた男性2人と連れの女性に挨拶し、熊の男性に挨拶し、それから熊田曜子に挨拶する。
すると熊田曜子が僕のところへ飛んできて、僕の手を握りしめ、
「高野さん、もう帰っちゃうんですか。今日はお話できなくて残念だったです。また今度店に来てくださいね。私の友達も、次の機会に紹介します。それじゃ、おやすみなさい」
と言ってきた・・・。
ウソです。