2012-06-22
牛肉のすき焼き風
今日の晩酌。
肴は牛肉のすき焼き風、ピーマンの焼いたの、白菜の浅漬、それに昨日のニシンとなすの煮物。
牛肉のすき焼き風。
安いオーストラリア産の牛こま切れ肉は、スーパーの特売で買ってくる。
いっしょに牛脂ももらってくれば、味はよくなる。
フライパンを強火にかけて牛脂を溶かし、牛肉を炒める。
牛肉の色が変わったら、うす切りにした玉ねぎを入れさらに炒める。
出しカップ1を注ぎ、酒とみりん、しょうゆそれぞれカップ4分の1、砂糖大さじ1~2を加え、味をみて、大きめに切った焼き豆腐を入れ、落としぶたをして5分くらい煮る。
シメジを入れ、シメジがしんなりしたら卵でとじれば出来あがり。
青ねぎと、七味をふって食べる。
ピーマンの焼いたの。
タテ半分に切ったピーマンの種を除き、焼き網で表と裏を、焦げ目がついてやわらかくなるまで焼く。
削りぶしとポン酢をかける。
白菜の浅漬。
ざく切りにした白菜を、白菜8分の1にたいして3~4つまみほどの塩で揉み、ハサミで細く切った出し昆布と小口切りにした唐辛子といっしょに漬物器に入れ、重しをかける。
翌日あたりから食べ頃になる。
酒は焼酎水割りを4杯。
東京で育った僕は、東京で酒を飲んできているから、飲み方も東京の流儀になる。
ところが京都へ来てみて、関西の流儀が東京とは大きく違うのに、いまだに慣れない。
もっともオネエちゃんがいる飲み屋では、それほど違ったところもないようにおもえる。
オネエちゃんがいる飲み屋では、お客は基本的におっさん行為をすることになる。
オネエちゃんもお店の従業員という立場から、お客さんを立ててくれるから、節度をわきまえ、またオネエちゃんにたいして本気になってしまわないことに気を付ければ問題ない。
違うのは、「カウンター」での飲み方だ。
東京の飲み屋のカウンターでは、隣にいる知らないお客さんに勝手に話しかけるのは、マナー違反になる。
バーテンなりママなりがカウンターでの秩序を取り仕切っていて、1人客には自分が話し相手になることもあるし、「このお客さんは隣のお客さんと話をしたらいい」と思えば、
「こちら高野さんといって、○○されている方なんですよ」
という形で紹介してくれる。
相手の紹介も受け、そこで初めて、
「そうですか、はじめまして、よろしくお願いします」
とあいさつをし、お客さん同士の会話が始まることになる。
これはべつに、格式の高いバーに限ったことではなく、東京ならふつうの居酒屋でも通用しているやり方ではないかとおもう。
ところが関西では、カウンターで隣り合ったお客さんをバーテンが紹介するなどということは皆無、お客さんはカウンターで、好きなお客さんと話していいことになっている。
時には他人同士のお客さんがすわっているカウンターの全体が、1つの話題で盛り上がることもある。
僕はいまだに、紹介を受けないカウンターのお客さんとどのように話したらいいかがわからず、まったく話せないか、話してもピント外れなことしか言えないことが多い。
そういう関西流の飲み屋の最たるものが、「立ち飲み屋」だとおもえる。
四条大宮にわりと若い大将がやっている、たいへん繁盛している立ち飲み屋があり、いつも夜の散歩の途中でのぞくと、狭い店内にお客さんがぎっしり詰まって、喧々ガクガクと話をしている。
あれだけの人数が友達同士であるわけがないから、お店の常連さん同士で顔見知りであるにしても、他人同士ということなのだろう。
けっこうな美人の女性がいることもあり、僕も中に入ってみたい気持ちがないではないが、話に加われる自信がなかったので、これまで敬して遠ざかっていた。
でもせっかく関西にいるのだから、僕も東京のやり方にこだわるのでなく、関西の流儀を身に付けたい・・・。
そこで今夜はとうとう、四条大宮の立ち飲み屋へ出かけていった。
L字型のカウンターがあり、入口に近いところには4人連れの男女、奥に2人連れの女性がいて、僕はそのあいだのが空いているところに位置をしめる。
酎ハイレモンを注文し、まん前にあるテレビを眺めながら、お客さんの話を聞いていた。
4人連れは、60歳くらいの男性と、40歳くらいの男性ふたりと女性ひとり。
60歳くらいの男性が、大きな声で話をしている。
奥の女性も40歳くらい。
女性は会社勤めの雰囲気だ。
ふとそのとき、僕は4人連れだとおもったお客さんが、4人が全員連れではなく、60歳の男性が、居合わせた3人連れに絡んでいるだけだということに気が付いた。
60歳の男性はおなじ建物にあるスナックへ来て、それからこちらに来たらしい。
かなりの泥酔、目は完全にすわっている。
40歳の3人連れにたいし、ろれつの回らぬ舌で、何やら失礼なことをわめき散らしている。
これは東京なら、完全なるマナー違反、「ほかのお客さんに迷惑をかける行為」は重罪だから、店からつまみ出されるのは確実だ。
ところが大将は、注意して見てはいるが、そのままにしている。
また驚くことに、3人連れの方も、怒る様子もなく、その酔っぱらいの相手をしている。
酔っぱらいをからかって、楽しんでいるようだ。
酔っぱらいがつまらないダジャレを言えば、
「すいません、それ放送事故です、ゴメンナサイ・・・」
酔っぱらいの隣にいる男性が、酔っぱらいに背中を向けてカウンターに片肘を付き、身を乗り出すようにして酔っぱらいとのあいだをさえぎって、
「オレ関口宏ばりに腰ひねっとるよ・・・」
その場ではじめて出会った泥酔したおっさんにたいして、どうやったらこういう当意即妙なやり取りができるのか、僕にはまったく見当もつかず、ただただ感心して4人のやり取りを眺めていた。
しかしどんどんボルテージが上がっていき、罵詈雑言を吐き散らす酔っぱらいに、3人連れも大将もさすがに堪忍袋の緒が切れて、やがて酔っ払いは、半ば追い出されるように店を出ていった。
入れ替わりに女性が入ってきた。
「かなりの美人・・・」
奥の女性2人連れの友達らしい。
やはり40歳くらい、冨士眞奈美を30歳くらい若くしたようなトランジスターグラマーで、茶色くきれいに染めた髪をアップにし、黒くふんわりとした服に白いストールを巻いている。
奥の2人と僕のあいだに位置をしめ、酎ハイを飲み始めた。
女性は隣にいる僕のことを時々チラ見する。
「意識しているらしい・・・」
僕も女性と話したいとおもい、マスターに飲み終わった酎ハイのお代りをたのんだ。
しかし、どうやって女性に話しかけたらいいのかわからない。
マスターも、べつに話を取り持ってくれる気配もない・・・。
女性は、コロコロと鈴が鳴るような声をしている。
僕と話すきっかけを作ろうとしたのだろう、大将に引っかけて、下ネタの話をする。
僕が笑うと、
「あ、この人、ニタリとしはった・・・」
でも僕は笑うだけで、それ以上なにか言うことができない・・・。
そのうち女性は僕に興味を失ったとみえ、女性3人で話し始めた。
2杯目の酎ハイを飲み終わった僕は、大将にお勘定をしてもらって店を出た。
外は雨だった。
僕はびしょ濡れになって、家に帰った。