「作家の口福」を読んだ。
朝日新聞の土曜版「be」に連載されたコラムをまとめたものなのだそうで、20人の作家が、「食」にまつわるわりと短めの文章を、それぞれ4本ずつ書いている。
僕はこれを、高校時代の友人にすすめられて読んだ。
つい先日、卒業以来30年ぶりに会ったその友人は、いっしょにバンドも組んでいた、「親友」ともいえる存在で、当時から「酒」と「文学」と「ロック」について造詣がふかく、僕は熱燗の飲み方も、トルストイも、レッド・ツェッペリンも、彼に教えてもらったものなのだ。
高校生なのに酒に詳しいというのもおかしな話だが、彼は小学生のころから、親父さんといっしょに酒をのんでいたらしい。
というよりも、もしかしたら、自分がちょっとでも知っていることを、さもものすごく詳しいかのようにひとに吹聴することについて、僕も人後におちないつもりでいるが、彼は僕をはるかに上回るということだったのかもしれない。
久しぶりに再開した友人は、シワこそふえたが、高校時代とまったく変わらず、証券会社の「部長」なのだそうだが、とてもそのようには見えず、そしてあいかわらず、酒と文学とロックに詳しかった。
ワインをのみ、僕がきいたことがないような名前の、日本のあたらしいバンドを「いい」といい、僕が最近、作家が書いた食のエッセイを読みあさっているといったら、すすめてきたのが、池波正太郎「食卓の風景」と、この本だ。
いまでもやはり、僕の上手をいくやつなのだ。
友人はこの本について、
「男性作家より女性作家が書いたもののほうがおもしろい」
といっていた。
たしかにその通りで、僕はこの本のなかで、男性作家の書いたものについて、おもしろいとおもったものはひとつもなかった。
さらに女性作家のなかでも、とてもおもしろいものから、たいしておもしろくないものまである。
そのちがいは、僕はひとえに、「食にたいする関心の強弱」なのだとおもった。
人間は誰でも、1日に2回か3回は食事をするわけだから、もしそのことに強い関心をもち、あれこれと探求することがあるとすれば、長い年月がたつうちに、その厚みは莫大なものになる。それにたいしておなじことでも、関心をもたなければ、見つかることは何もないままだ。
男性はだいたいの場合、食事は母親か、奥さんかがつくってくれるか、または外食ということになりがちだから、「食べる」ということに、主体的な興味をむけないことが多い。
だからこの本に書いている男性作家の場合でも、たまたま食べた珍しいものの話とか、子供のころの思い出とか、食事の際のひととのやりとりとかいうところに話がむかってしまう。
それにたいして女性は、「料理もできない女」というのが、罵言となる世の中だから、料理をするにせよ、しないにせよ、なんらかの形で、それに向き合わざるをえないことになる。
僕がこの本のなかで、いちばんおもしろいとおもったのは、「村山由佳」。
まず「田んぼ」の話からはいる。
「肉をさばく」話とか。
田んぼにしても、肉をさばくことにしても、たしかにそれはまさに、現代人が忘れがちなことではあるが、「食の原点」であり、「食のエッセイ」という場面でそれを持ち出してくるというのは、スケールが大きいとおもった。
それから「恩田陸」。
このひとは「酒好き」のようで、
「旅の始まり。列車に乗って席に落ち着き、プシュっと缶ビールを開ける瞬間に優る幸福を、ちょっと思いつくことができない」
とのこと。
イチイチ共感することが多かった。
「内田春菊」。
自分が日常的に、家族のためにつくる、弁当やら食事やらのことを、ぶっきらぼうな、ブログのような文章で書いていて、そのかっこよさにしびれる。
「三浦しおん」。
「台所の流しのまえに漫画を積んでしまった」ために、自炊をしなくなり、「シンクに洗い物が溜まってしまった」ために、使える皿や器もひとつもなくなって、「レトルトのおかゆをヤカンに投じて温め、パックのままスプーンですくって食べる」という生活。
そのすさまじい様子を克明に描くというのは、たしかに文学的。
昨日の晩めし。
あさりの味噌汁。
酒の肴に「汁物が合う」ということに最近気付き、それならアサリを味噌汁にしたらいいだろうとおもってやってみた。
たしかに悪くなかったのだが、味噌汁はやはり、つくりばながうまいのだな。
時間がたつにつれて、味噌の風味が飛んでいってしまって、後半はちょっとイマイチな感じだった。
豚汁ではそんなことはなかったのだが、何がちがうのかな。
しかもみりんを入れてしまって、アサリの味噌汁にみりんは、入れないほうがよかった。
酒は「桃の滴」の冷やを2合。
今日の昼めし。
このところ前日夜の残りものを昼めしにすることがつづいて、日曜日も恒例の「新福菜館三条店」にいかなかったし、今日あたり新福菜館へいきたいところだったのだけれど、水曜は定休日。
それでは久しぶりに「だいこんのはな」の巨大とんかつを食べようと出掛けたら、やはり休みで、中途半端に外食するよりはと、今日も家で、「豚肉のうどんすき」を食べた。
しょうゆとみりんを、昆布だしに酒を入れ、豚肉を煮た汁で割ってタレにするから、考えてみたらこれは、家にいながらにして、新福菜館の味。
なかなかよかった。
もちろん発泡酒つき。