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2011-07-03

有栖川 「天山の湯」


「風呂」っていうのはいいんだよな。

僕は風呂に入るのが好きで、夏でも毎晩、シャワーじゃなくて、湯船に湯をためた風呂に入る。半身浴になるくらいの湯量にして、本や雑誌を読みながら20分くらいは入っている。それで汗ダラダラになってきたら、そのままその湯で体を洗って出てくるという寸法だ。

疲れを取るということのために、風呂ほど効き目のあるものはないのじゃないか。僕は以前ふくらはぎに痛みが残ってしまったことがあって、マッサージに行ったりしても治らなかったものが、サウナへ行ったら一発で治ったということがあった。それから僕は、風呂教の信者になってしまったというわけなのだ。夜風呂に入らないと、朝起きても疲れが取り切れていないということはけっこう多い。

さらにまた朝風呂というのが、これがまた格別なわけだ。

小原庄助じゃないが、
「朝寝朝酒朝湯…」
これは人生における快楽の最たるものじゃないかと思うんだがな。いやまあ、快楽にも色々あるとは思うけれども、この「寝る」「酒」「風呂」というのは、普段は夜やってるものを、ただ朝にやる、というだけの話だ。お金も大してかからない。なのにそれがこれだけ愉快で気持ちがいいというのは不思議なものだ。

でそれをまとめてやってしまう場所というのが、「サウナ」とか「スーパー銭湯」であるということなのだよな。僕はこれが大好きで、毎週土曜日は近所のスーパー銭湯で風呂に入って、そこでちょっとまどろんで、それからビールを飲むというのを日課にしている。

昨日はそれを、ちょっと足を伸ばして、いつもより遠くのスーパー銭湯へ行ってきたのだ。
「天山の湯」
という所で、四条大宮から嵐山電車に乗り、「有栖川」で降りると徒歩3分くらいのところにある。

ここは元々、僕がよく行く馴染みの喫茶店に、やはりちょくちょく来る若いオネエちゃんから教えてもらったのだ。近所には「壬生やまとの湯」があり、僕はそこへ毎週行っていたわけだけれど、そこより全然いいと。「ロリュ」といって、サウナの中でアロマを炊いて、そこで従業員がバスタオルで客に向かってバサバサあおぎ、アロマの香りのする熱風を吹き付けてくれるのが気持ちがいいのだそうだ。「スーパー大黒屋」で割引券も配っている。

風呂に入るのにわざわざ電車に乗るというのも、ちょっと何だという気がしなくもないが、先週は鞍馬温泉にも行ってみたことだし、せっかくだからこちらにも来てみることにしたというわけなのだ。

で結論を言うと、ここは非常に良かった。もう僕はこれから、壬生やまとの湯はお別れして、こちらに乗り換えることにする。

館内は非常にきれい。5年前にできたばかりなのだそうで、茶色の木目に白い壁、シルバーにガラスという流行りのインテリアで統一されて、キラキラしている。僕は建物自体のきれいさは、それが清潔でありさえすれば、あまり重視はしないのだが、こういう施設は、汚いよりはきれいな方がいい。女性は好きそうだな、こういうの。

ここがまず何よりいいのは、天然温泉だということ。ここの場所の地下1200メートルをボーリングしたのだそうだ。

またそのお湯が、濃いオレンジ色をしていて、入ると自分の足がもう見えないというくらいで、それがまた非常にキク。成分が何だったか忘れたが、疲れが溜まっている所があると、そこにジンジンとくる。この湯に浸かれるというだけで、まずここは来る価値がある。

そして入館料。一般1000円、会員900円で、スーパー銭湯としては多少高めなのだけれど、これで何度でも風呂に入れるのだ。壬生やまとの湯は休日は会員650円だけれども、一回風呂に入って、休憩スペースへ出てきてしまうと、もう風呂には戻れないという設定になっている。それに対してこちらは、風呂に入って、上がって食事をしたり酒を飲んだりして、また風呂に入って、という使い方ができるというわけなのだ。だから極端に言えば、一日をそこでだらだらと過ごすということもできることになる。

ただ壬生やまとの湯と違って、こちらは無料の休憩スペースは小さくて、休もうと思うとレストランかマッサージコーナーへ行かないといけないようになっている。まあそれは経営上の戦略として、そのようにして収益を上げようとしているということなわけだ。でもお客を長居させずに、回転を上げることによって収益を上げるのと、長居させることによって収益を上げようとすることでは、僕は後者の方が賢いと思う。結局長居した分、余計にお金を使ってしまったとしても、その方がお客の満足度も高いのじゃないかという気がするな。「お客の回転を上げる」というのは高度経済成長時代の考え方で、今はもっと違ったものが求められていると思う。

そうやってお客を長居させるためには、館内の食事がそれなりに美味しくなければならないわけだけれど、ここの食事は値段の割にはかなり良かった。

まあ当然生ビール。ダイニングスペースもかなり広くて、小洒落た感じで造られている。店員の接客も悪くはない。

それで「生ビールセット」というのがあって、生ビールだけだと500円だと思ったけれど、700円出すと、こうしてけっこうな量の串揚げが付いてきたりする。これは安いと思った。

続いて冷や酒に鯖寿司と洒落こんでみたのだが、この鯖寿司がかなりうまかった。どこかから取り寄せているのじゃなくて、ここの板前が自分で作っているのだそうだ。どのくらいうまいかというと、京都駅のみやげ物屋で売っている鯖寿司の100倍はうまい。僕がちょくちょく行っている近所の寿司屋の鯖寿司より、下手したらこちらのほうがうまかった。

これが3切れ、たぶん半身の3分の1くらいじゃないかと思うけれども、それで530円。安い。

ただちなみに言えば、この鯖寿司、3切れのうち1切れは、モソモソで京都駅並にまずかった。うまくいかなかったやつを、捨てるわけにも行かないから、忍び込ませているのだな。まあしかし、そのくらいは許せる範囲でしょう。

ざるそばも食ってみた。600円。極上ではないのだけれど、きちんと生そばを使っているのだそうで、80点くらいの味はする。

全体として、この値段で、しかもここで食事したあとまた風呂に入れるということを考えれば、十分満足できる味だった。

それで僕は、これを食べ終わってまた風呂に戻って、そこで一眠りしたりもして、また戻ってきてかき氷。

いや極楽極楽。

天山の湯ホームページ