このサイトは、おっさんひとり飯の「旧サイト」です。
新サイトはこちら
へ移動しました。
なんでサイトを移動したの?⇒ こちら

2008-09-15

広島地蔵通り お好み焼き 貴家。


この店の店主は、まだ若いのだが「みっちゃん総本店」で15年修行し、うち4年は店長をつとめていた()というツワモノだ。
2004年4月オープンだからまだそんなに時間も経っていないのだが、けっこうな評判で、入り口近くには何十枚という色紙が貼ってある。
そのうち一枚に沢口靖子の名前が見えたので、NHKとのつながりでもあるのだろうか。
ホームページも開設し、ネットテレビで店の様子をオンラインで中継したり、ネット販売もしたりと、いろいろ努力している。
ネット販売では、年末には二ヶ月で1,200枚の受注があった()というから、事業人としてもバランスが取れているのだろう。

みっちゃん総本店の会長は、広島風お好み焼きを現在のように「広島の名物」にまで育て上げた、中心人物である。
まだ広島をたいして知りもしないくせに言い切ってしまう訳だが。
今主流となっているお好み焼きの焼き方を考え出し、そのお好み焼きを大量の人に提供するための仕組みを、店舗のあり方や、駅や空港などでの販売、ネット販売、などなど全て考え、さらにそれを実現するための人材の育成にも熱心に取り組んでいる。
広島風お好み焼きの屋台骨を担っていると言っても過言ではない。
たぶんだが。
会ったことはまだないが、おそらく強烈な個性の持ち主だろう。
そのような人のもとで15年働き、そして独立するということは、総本店のDNAを当然色濃く継承しながらも、自分自身は何をめざすのか、みっちゃんとは異なるどこへ向かおうとするのか、ということを明確にする努力が必要だったに違いない。

この店のばあい、それが一番はっきりと表れているのは、店舗のあり方である。
みっちゃん総本店は、客に鉄板で食べさせることを放棄した。
もちろん総本店にも巨大な鉄板があり、そこで大量のお好み焼きが焼かれるわけだが、その前には椅子は5脚ほどしか置かれておらず、リクエストすれば鉄板前でも食べさせてくれるが、何も言わないとテーブル席に案内され、お好み焼きは皿に盛られて運ばれる。
たくさんの客にお好み焼きを提供するためには、鉄板前に座らせるだけでは限界があるのは当然のことである。
これは僕の想像だが、総本店会長は、屋台時代の古い固定観念に囚われないようにしようと心がけたのだ。
屋台時代とは桁ちがいの数の人にお好み焼きを提供することを、屋台時代の形に囚われることなく思いえがく努力をし、それを大胆に実行したところに、みっちゃんの今の飛躍があったのだ。
鉄板で食べさせることの放棄は、そういうことの一つだったのだと思う。

しかしこの貴家。は、鉄板で食べさせることにこだわった。
店を入ると手前に大きな鉄板があり、お好み焼きはそこで焼かれ、その前にもちろん客も座るようになっている。
しかしそれだけではなく、さらに奥に向かって、カウンター状の台の上に細長い鉄板が続いている。
お好み焼きを焼くためではなく、あくまで食べるための鉄板なのだ。
テーブル席はない。
「お好み焼きは鉄板で食べる」という原点に、この店は改めて立ち返ろうとしているのである。

またこの店は夜は居酒屋風になるようで、焼酎などお酒を何十種類と置き、つまみの鉄板料理もかなりの品数を用意している。
夜の12時まで営業しているそうで、昼からの営業だから、店主は若いとは言え大変である。
客は全てカウンター席にいるわけだから、ただ飲食を提供するだけではなく、時には酔っ払いの話し相手にならないといけない。
苦労は並大抵ではないだろう。
みっちゃん総本店にいた頃には、全く存在しなかった苦労である。

しかしたしかにその通り、客は機械ではない。
高度経済成長の時代には、おいしいお好み焼きが目の前にあり、ただそれを口に運べば人は満足していたのかもしれない。
しかし今の時代は、それだけでは十分ではなく、お酒も飲んだり、一緒に色々つまんだり、店員や周りの客とちょっと話しをしたり、などということの総体に、「食べる楽しみ」が存在するようになっている。
みっちゃん総本店のやり方では、今の楽しみに対応しきれないのである。
そんな時代の変化に合わせて、この店はただ「おいしいお好み焼き」という物体を客に提供するということのみに留まらず、お客に食べる楽しみを感じてもらうこと自体を目指しているのである。
おおげさだが。


さてそのお好み焼きだが、ひとことで言うと「直球ストレート」。
みっちゃん総本店の流儀を、大切にしながらもさらにブラッシュアップさせ、総本店よりおいしいお好み焼きを出す。
ソースから生地、キャベツ、もやし、焼き方、それぞれに独自のこだわりがあるそうだ()。
野菜はみずみずしく味があり、麺はかりっとしている。
途中で飽きることなく、最後のひと口までおいしく食べられる。
かんらん車」のような革新的な転換はないが、かなりのレベルだと思う。

地蔵通りは拙宅からちゃりんこで30分ほどかかるので、酔っ払うと帰りがしんどいのだが、今度はぜひ夜の時間帯に行ってみたいと思う。

貴家。 (たかや) (お好み焼き / 中電前)
★★★★ 4.0

広島ブログ