2012-02-04
イワシ鍋
毎日鍋を食べ、飽きることがないわけだが、実のところ僕は、鍋料理ばかりでなく、「鍋」そのものが好きだ。
昔はずいぶん、鍋を持っていて、土鍋は大きさや形が違うのを4つ、中華鍋は、両手、片手、小さいのと3つ、雪平鍋大小2つ、そのほか文化鍋やパスタ鍋、炒め鍋、ふつうの片手鍋や両手鍋など、10以上持っていた。
男が料理しようとする時、一般に道具に凝ることが多い。包丁やら、バーベキューの道具やら、揃える人も少なくないだろう。
僕は包丁にもバーベキューにも興味を持ったことはないが、鍋だけは、店で見かけたりすると、たまらず欲しくなる。
なぜ鍋が好きなのか、自分なりに分析すると、どうも僕は、水に何かが溶け出すことが好きらしい。
小さな頃、洗面台に張った水に、折り紙を入れるのが好きだった。入れていくと、折り紙に付いている色が溶け出し、水が染まる。何枚も入れると、色がどんどん変わっていくのが楽しかった。
洗濯機が回るのを上から眺めるのは、今でも好きだ。
水にひたった色々なものから、何かが溶け出してくる。溶け出してきたものが、混じり合い、水が複雑なものになっていく。
料理の場合、それを可能にする道具が、「鍋」だということなのだと思う。
初めて鶏がらのだしを取ったときにも、だしが取れるまでの数時間のあいだ、鍋の中の様子を眺めて飽きることがなかった。
前に持っていた鍋は、引越しを機に全部捨ててしまい、それからはできる限り、最小限にしようと努めてはいる。
それでも時々、どうしても欲しくなることがあるのだが、ここしばらく、欲しくなっていたのが、アルマイトの両手鍋。
金物屋の店頭に、大きいのから小さいのまで、塔のように積み上げられてしまうと、もうたまらない。
ずいぶん我慢していたが、どうにも我慢しきれなくなり、とうとう先日買ってしまった。
鍋料理をするとなると、土鍋を使うのが普通だろう。でも土鍋はでかくて重くて、置き場所に困る。
また手入れもわりとめんどうで、不精して、使った土鍋を水にひたしたままにしておいたりすると、すぐに欠けてしまったりする。
さらに落とすと割れてしまうのもいただけない。
以前は業務用っぽい鍋に惹かれることが多かったのだが、この頃は年のせいか、こういう、「いかにも昭和」というものに、魅力を感じるようになっている。
アルマイトは昭和4年に、理化学研究所で開発されたというから、まさに昭和を代表するもののひとつだろう。
しかし考えてみると、「鍋の発明」は、人類の歴史の中でも、かなり大きいことだったと言えるのじゃないか。
人類の歴史のことはよく知らないが、鍋が発明される以前でも、火はあったのだろうから、それで焼いたりすることはあったのだろう。塩をすり込んで、発酵させるなどということもしていたかもしれない。
しかし鍋がなければ、煮炊きはできなかったわけだ。
日本で鍋が発明されたのは、縄文時代、1万6千年前の縄文土器の誕生にさかのぼると言われている。
土器で煮炊きし、そのスープを飲んだ縄文人たちは、あまりのうまさに腰を抜かしただろう。
スープこそ、鍋がなければ、決して味わえないものだ。
縄文土器に過度な装飾がほどこされているのは、縄文人たちが、土器をそれだけ大事なものととらえていた証だと考えられているそうだ。
昨日は節分。
節分にイワシを食べるというのは、京都へ来てはじめて知ったが、せっかくだから僕も食べることにした。
節分には塩イワシを焼いて食べるのが普通だそうだが、僕はイワシを鍋に入れるのだから、塩をしていないやつを買う。
スーパーには、解凍物だが、でかくて丸々太ったのと、生だが小さく痩せたのがあった。
どちらがうまいのかと、鮮魚コーナーのお兄ちゃんにきくと、「それは解凍でも太っているもののほうが脂が乗っていてうまい」というから、そちらを買うことにした。
イワシを鍋に入れるには、たたいてつみれにするのが一般的だが、そのまま入れてしまっても十分いける。
臭みがあるのじゃないかと思うかもしれないが、そんなことは全然ない。
買い物から帰ったら、すぐに頭を落とし、ハラワタをかき出しよく洗い、水をふき取って、塩をふる。
ラップして冷蔵庫に入れ、料理を始めるまで、そのまましばらく置いておく。
こうすると、臭みも抜けるし、味も良くなる。
鍋に昆布をしき、水を張り酒をたっぷり入れたところへ、塩を洗い流してぶつ切りにしたイワシと、細く切った大根、それにスライスしたショウガ1~2枚を入れ、醤油で味付けして火にかける。
鍋はやはり、煮物とちがって汁を飲むものだから、あまり甘みをつけてしまわないほうがいい。
5分ほど煮たら、豆腐と長ネギ、それにシメジを入れ、ひと煮したら出来あがり。
七味をふって食う。
イワシは安い魚だが、脂が乗ったのは大変うまい。
味がしみた大根も、またいい。
イワシのうまみに、野菜のほんのりした甘みが加わって、だしも絶品。