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2012-01-17

赤だし味噌に白味噌をブレンドしたこってり味。
「豚汁鍋」


人間は、どのくらいの物事を、知ることができるのだろうと思うんですよね。

京都に2年ほど住んで、なんとなく、京都のことは、ひと通りわかったような気がしてしまうところがあるんですが、もちろん、そんなことはあるわけがない。



昨日、家の近くの商店街の、西の端にある肉屋で、初めて肉を買ってみたんです。

その肉屋は、たいへん繁盛していて、時によっては行列ができていることもあるのは知っていたんですが、「どうせ高い牛肉が、多少安くなっているだけで、自分には関係ない」と、勝手に思い込んでいたんですね。

そうやって思い込んでいる分には、その肉屋はそういう店として、僕の中には存在しているわけです。

しかし昨日、その肉屋が、それ以外の、豚コマ肉みたいな、僕がよく買う肉についても、激安であることを初めて知った。

だいたいこのあたりでは、日本産の豚コマ肉は、スーパーの特売でいちばん安くなったとしても、98円。

通常は、110円から140円くらいの値段だと思うんですよね。

それが、なんと90円。

もう昨日、それを知った瞬間に、僕は肉は永遠に、その店で買おうと決意したわけなのですが、知っていると思っていたはずの日常の風景が、何かのきっかけで、まったく別の姿を見せはじめるというのは、時々あったりすることですよね。



だいたい、自分の隣にいる人のことだって、人間は本当に知っているわけではない。

自分の奥さんが、じつは浮気していた、みたいなことだって、世の中にはいくらだってあるわけです。

それまで平和だと思っていた自分の日常が、ガラガラと音を立てて崩れ去る。

人間が、実際は知りもしないのに、「知っている」感じがしていることというのは、不思議なことだなと思うんです。



というわけで、昨日はその肉屋で、豚コマ肉を買うことに決めたわけですが、それで何を作ろうか、色々考えてみるに、鍋物のなかで、豚肉を使った料理として、まず第一にあげられるのは、「常夜鍋」。

でもこれは、わりかし最近、食べたばかりなんですよね。

そうすると、次に出てくるのは、「豚汁」ということになるんです、僕の場合。



「豚汁が鍋物か」というと、これは非常に微妙な問題だと思うんですよね。

豚汁を、器によそってしまわずに、鍋のまま食卓に置けば、まさに風景としては、鍋物であるわけです。

何なら、というか、僕の場合はそうするわけですが、食卓でグツグツ煮てみせたっていい。

しかしそれが、「豚鍋」と呼ばれることは決してなく、「汁」であるのは何故なんでしょう。



「材料を自分で入れる」というのが、「鍋」と呼ばれるためには必要なのかと思わないでもないけれど、しかし料理屋などで、すべて材料を、鍋の中に詰め込んだものを持ってきて、食卓で火をつけるということも、あったりするわけなんですよね。

あと、「根菜ばかりが使われているものは、鍋とは呼ばない」という可能性も、あるのかなという気はします。

豚汁には白菜とか、春菊とか、鍋の定番材料を入れることは、まずないですもんね。

でも池波正太郎の本で、「軍鶏鍋(しゃもなべ)」というのがあって、それは、軍鶏に「里芋、大根、椎茸、ざく葱」などが入ったものなのだそうです。



まあそうなると、「ようわからん」としか言えないわけですが、であるからして、別に豚汁が、鍋物であっていけないわけではない。

しかし「豚鍋」というと、まったく違うものをイメージすることになりそうなので、今日のタイトルを「豚汁鍋」としてみたわけです。

完全にどうでもいいですね。



さてそれで、豚汁の材料として何を入れるかということが、また考えどころになるわけです。

これは千差万別、人それぞれでしょうけれど、僕の場合、まず初めに思い浮かぶのが、ジャガイモ。

味噌の味がしみた、ほくほくのジャガイモと、豚肉のコンビネーションというのが、また最高なんですよね。

そうすると、ジャガイモとは切っても切れないパートナーとして、玉ネギが、自動的に当確となる。

あとはタケノコ。

タケノコの、コリッとした感じと、豚肉との相性も、また乙なもんです。

そうすると、タケノコとは切っても切れない、と、僕が感じる、ゴボウが当確となる。

それから大根。

汁のしみた大根は、何ともうまいものです。

そうすると、自動的にニンジンが当確。

豆腐類を何か入れたいなと思いますよね。

ふつうの豆腐か、焼き豆腐か、油揚げか、はたまた厚揚げかという選択肢があるわけですが、こうやってコトコト煮込む料理に、何といってもうまいのは、厚揚げ。

キノコ類も入れたいです。

椎茸か、シメジか、エノキ茸か、はたまた舞茸か、ということになると思うんですが、豚肉との相性ということを考えると、ここはシメジ。

あとは、冷蔵庫に入っている、長ネギを、厚めの小口切りに切り火を止めてから入れて、薬味と具半々くらいの位置づけで、風味だしに頑張ってもらうことにしました。



以上の材料は、スーパーで熟考を重ねた上、決めたものなのですが、僕としては、現時点では、豚汁には、これらの何が欠けてもダメ、逆にこれ以外は何も必要がない、というラインナップとなりますね。

豚汁には、コンニャクが定番かと思うんですが、僕はコンニャクの存在価値が、まだイマイチよく分からないところがあるので、入れません。

こんなに材料を買って、ひとり暮らしだと残ってしまうと思うかもしれませんが、根菜の場合、1ヶ月近く余裕でもつので、ひとり暮らしでも、買い置きしておいて問題ないですね。



まず昆布と削りぶしでだしを取る。

昆布と削りぶしを水から入れて、中火にかけ、沸騰したら弱火で3分ほど煮て、あとはザルにキッチンペーパーをしいて、漉しとれば出来あがり。簡単です。



だしに味噌を溶き入れる。

うちには米こうじ味噌は置いていなくて、名古屋八丁味噌の代表ブランドカクキューの赤だし味噌、それからそれがなくなってしまったので、京都のスーパーで買った、赤だし味噌、それに西京味噌をブレンドして使ってみました。

マイルドな味わいになり、なかなかイケたですよ。

八丁味噌や、白味噌の場合、はじめから味噌を溶き入れ、コトコト煮てしまって問題ないと思いますが、米こうじ味噌を使うのだったら、出来あがりの時に溶き入れるようにしたほうが、いいのかもしれません。



味噌味の場合、ほかに酒だの醤油だの、みりんだの、ショウガ汁だのを入れてしまうより、こうやって、味噌一本でいってしまうのが、僕は好きです。

でももちろん、好みにより、色々入れてもかまいません。



ちなみに、京都といえば「白味噌」というイメージがありますが、京都の寿司屋で、味噌汁を頼むと、赤だしが出てくるんです。

どうしてかと思っていたら、京都でも、黒い豆味噌をつくっているところがあるんですね。

さすが京都、ほんとに奥が深い。



だしに味噌をとき入れたら、シメジと長ネギ以外の材料をすべてぶち込み、コトコト煮る。

ただあまり長く煮ると、ジャガイモが煮くずれてしまうので、長くても15分程度にしておいたほうがいいですね。

ジャガイモは、煮くずれにくいメイクイーンを買い、さらに切ったら、水にひたして、煮くずれを防ぐようにしておきます。



僕は豚汁の場合でも、材料を鍋に入れてから先は、ぬる燗をチビチビやりながら、食卓でやります。



というわけで、完成した豚汁鍋。

しめじを入れ、ひと煮したら、火を止めて、長ネギを振りかける。



こういうコッテリした味噌味には、七味より、一味唐辛子が合いますね。

(この写真には、七味唐辛子がかかっています)