2011-10-31
たいへん簡単で圧倒的にうまい。「鯖寿司」の作り方
最近は魚屋のお兄ちゃんともすっかり仲良くなり、行けばいろいろ話をするようになっている。先日は「イカの味噌バター炒め」の作り方をきかれたから、ていねいに教えてあげた。お兄ちゃんは魚屋だから、魚をさばいたりしめ鯖にしたりするのは慣れているだろうが、料理自体はそれほどしないらしい。しかし時々は、家族のために腕を奮ってみたいのだろう。イカをハラワタもろとも、ブツブツと切るというのを、気に入ってくれたみたいだ。
そしたらそれが、うまくいったのだそうで、うれしそうに報告してくれた。美人のお嫁さんも、「すごくおいしかったですよ、ありがとうございます」などと言ってくれる。もちろん商売上の配慮があるにしても、こういう付き合いができるところが、商店街のいいところだ。
しかしそうやってお兄ちゃんと仲良くなるのもその筈で、このごろ僕は、毎日魚屋に顔をだしている。肉屋にならぶものは、特売などがあれば別として、毎日それほど変わらないのにたいし、魚屋では、毎日ちがったものがならぶ。魚はまさに「生モノ」だから、養殖モノは別として、全国の海のどこで、どんなものが獲れるのかは、獲れてみなければわからないことだろう。魚屋にしたって、その日の朝、実際に市場へ行ってみなければ、何を仕入れたらいいか決まらないにちがいない。
だから魚屋は、売っているものを家で予想することができない。「今日は肉を食べよう」とおもい、魚屋へ行かなかったその日に、たまたま出た出物を買い損ねるのは、なんとも口惜しい。それでたとえ買わなかったとしても、毎日魚屋に顔をだし、並んでいるものをチェックすることになってしまうのだ。
先週は月曜から、鯖が出るのを待っていた。一回「済州島の鯖」が出ていたのだけれど、いくらうまいといったって、一尾1,200円もするのじゃ手が出ない。そしたら土曜日、石川県の鯖が、1尾600円で出ていたので、ほんとうはその日は肉を買おうとおもっていたのだが、急遽鯖を買うことにした。半身とアラは、船場汁にし、残りの半身はしめ鯖にする。鯖は料理の仕方により、まったくちがった味になるから、2日くらい続いたって問題ない。
魚屋のお兄ちゃんは、鯖をさばきながら、
「たしかに済州島の鯖は、脂が乗ってておいしいんですが、焼くのはいいけれど、しめ鯖にするには脂が多すぎると言う人も多いんですよ」
と言う。それに対して石川県の鯖は、脂の乗りぐあいが丁度よいというわけだが、石川や福井の鯖は、昔から「鯖街道」を通り、京都へ入ってきただろう。京都の人にとっては、やはり思い入れがあるのかもしれない。
というわけで、3枚におろし、塩をふってもらった鯖を、持ち帰ってきたのだが、鯖を買うには、魚屋で買うのがいいのはまちがいない。まず鯖の鮮度は、切身にしてしまうとわかりにくい。まるごと一匹の鯖を見れば、イキのいいのと悪いのとは、色艶がまったくちがい、一目瞭然なのだが、切身になると、どれもあまり違わないようにみえる。
また魚屋なら、鮮度については、お店の人にいちいち確認することができるし、料理の仕方を念入りにきくこともできる。さらに買った魚を、用途に応じてさばいてもらうことも自由自在だ。魚屋で魚を買うたのしみを知ってしまうと、スーパーで魚を買う気がしなくなる。
しめ鯖はしめたその日に食べるのもうまいが、1日おくと味がなじんで、僕はそちらの方が好きだ。だからまるまる1匹買った鯖は、初日は汁にして、しめ鯖は次の日食べることにする。
魚屋では、おろして、塩をふるところまでやってもらう。いつ酢に漬けるかを言えば、それにちょうどいいように、塩の量を加減してくれる。
塩をした鯖は、水で洗い、水気をよく拭きとってから酢に漬ける。漬け酢には、砂糖を「ほんのちょっぴり」混ぜる。昆布といっしょに袋に入れ、漬け時間は「3時間」。しめ鯖を酢に漬ける時間は、「30分」というのから、「まる2日」というのまで、多くの流儀があるのだが、この「3時間」は、魚屋のお兄ちゃんが、確信のもとに指定する時間。
3時間たつと、まわりは白くなり、中はまだ赤いままという、「レア」の状態になる。酢はよく拭いとっておく。
頭の方から皮をはぐ。これは手でとても簡単にできる。ほんとうは、中骨も、一本一本指か骨抜きをつかい、取らないといけなかったのだが、昨日は忘れた。しかししめ鯖のまま食べるには、骨を残すのは問題あるかもしれないが、鯖寿司にして、寿司飯の上にのせてしまえば、骨はまったく気にならない。
皮をはいだしめ鯖は、ラップに包んで冷蔵庫に入れておく。1日おくのが食べごろで、2日おくのも悪くない。
しめ鯖はほんとうに、おどろくほど簡単にできる。イキのいい鯖を買うことだけが大事で、魚屋でおろしてもらってしまえば、あとはただ酢に漬けるだけだから、何の手間もかからない。いい鯖を見つけたら、ぜひ試してみてほしい。鯖の鮮度は、魚屋に「しめ鯖にできるか」をきけば、確認できる。
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あとはこれに、寿司飯を炊いて、しめ鯖をのせれば、鯖寿司の完成となる。
寿司飯を炊くには、まず米を水にひたすとき、昆布をいっしょに入れておく。1時間ほどもひたせば、それを取出してしまってから、炊飯器のスイッチをいれるのでも問題ない。
炊きあがった米に酢をかける。酢の量は、米の量の10分の1というのが檀一雄流。鯖の半身を鯖寿司にするのなら、米は1合程度がちょうどいい。それだと酢の量は、18cc(くらい)。酢にはほんのちょっぴりの砂糖を混ぜてもよい。
酢をかけた飯は、切るようにしてよく混ぜる。風を当てて冷ましながらやるが、檀一雄は扇風機をつかう。
あとは寿司飯としめ鯖を合体させればいいわけで、押し寿司用の箱があればそれが一番だが、なければどうにでも、適当にやればいよい。昨日はラップをしいた上にしめ鯖をのせ、その上から寿司飯をのせる。それをラップでくるみ、上や横から手でよく押すというやり方をしてみた。
なかなか悪くない仕上がりだ。これを水にぬらした包丁で、適当な大きさに切る。
というわけで、鯖寿司の完成だ。上に「ひねりゴマ」をふるのが「檀流」だが、昨日ふったのはすりゴマ。
旬で脂がのった、肉厚の鯖の身が、ちょうどよい加減で酢でしめられたのは、なんともたまらない。寿司飯も、昆布をいれると圧倒的にうまい。
鯖寿司には、もちろん日本酒。日本人であることの幸せを噛みしめる一瞬。