2011-10-16
魚屋のおばちゃんに学ぶ、「にしんとナスの煮付け」
昨日は塩辛だけじゃなく、にしんとナスの煮付けを、魚屋のおばちゃんにきいたやり方に、忠実にしたがって作ってみたら、非常にうまかった。
魚屋のおばちゃんに、たとえば「ぶり大根」の作り方をきくと、普通レシピに載っているのとは、ちがったやり方を教えてくれる。
ほとんどのぶり大根のレシピには、「ぶりと大根をいっしょに鍋にいれて炊く」というやり方が載っている。
しかし魚屋のおばちゃんは、ちがうのだ。
「まずぶりを炊いて、その汁を別の鍋にとり分け、すこし薄めて、下ゆでした大根を炊く・・・」
ぶりはこってりと煮汁を煮詰めてしまったほうがうまい。それにたいして大根は、もっとうす味で炊いたほうがうまい。だからそれぞれ、分けて調理するという考え方なのだ。
これは、京都の人の料理法の、ひとつの典型を示すものといえるのじゃないか。
「それぞれの素材にたいし、適切に手をくわえる」
ことが、京都では重視されるということだろう。「ぶり」と「大根」という、ほんらい別々のやり方で手をかけなければいけないものにたいし、一つの鍋で炊いてしまうことは、京都の人の感覚からすれば、「許せないこと」なのだろう。
八百屋のお姉ちゃんに、「青菜とお揚げの炊いたん」をどう作るのかを聞いたときも、やはり普通レシピに載っているのとは、ちがうやり方を教えてくれた。
青菜とお揚げを炊くのには、青菜とお揚げを、はじめからいっしょの鍋で炊くのが普通だろう。
しかし八百屋のお姉ちゃんは、まず青菜は、下ゆでをしてよく絞り、それを、
「出汁で温めるていどにするのがいい」
とのことだった。
ほうれん草ならまだ、大量にでるアクにたいする対処をするのもわかるが、青菜一般にたいし、そのようなやり方をするというのだから、京都の人の、素材にたいする想いの深さが伝わってくるだろう。
魚屋のおばちゃんに、「にしんとナスの煮付け」の作り方をきくと、「ぶり大根と同じ」だという。
ぶり大根にしても、にしんとナスの煮付けにしても、これまでおばちゃんのやり方に、きちんと従わず、ひとつの同じ鍋で作ってばかりいたので、昨日は休みで時間もあったし、おばちゃんの言うとおりにしてみたというわけなのだ。
にしんは、伝統的には「身欠きにしん」を使うわけだが、冷蔵技術が発達したからだろう、「ソフトにしん」と呼ばれる、半生のタイプのにしんがある。
身欠きにしんは、一昼夜水に浸けておいて、戻したりしないといけないわけだが、こちらは湯通しだけすれば、すぐに使える。しかも値段も、身欠きにしんよりだいぶ安い。
ただこのソフトにしんが、京都以外の場所で売っているのかどうかはわからない。スーパーでも、京都の地元のスーパーには、身欠きにしんもソフトにしんもおいてあるが、「グルメシティ」など全国系のスーパーには置いていない。グルメシティには、にしんは煮付けて真空パックに入れられたものが、置かれているだけだ。
にしんは、適当な大きさに切り分ける。
これを湯通しする。
湯通しは、鍋に湯を沸かし、火を止めてから、魚を入れるようにするわけだけれど、給湯器を最高温度にして、その湯を魚の入ったボールや鍋に、直接注ぎこむようにしても、これまで問題があったことは一度もない。
水と酒、それぞれカップ半分くらいを煮立て、にしんを入れる。本当はここに昆布を敷いたほうがうまかったが、昨日は忘れた。
みりんと砂糖、それに醤油でこってり味を付け、弱めの中火で、10分程度コトコト煮る。
ナスなのだが、これはあらかじめ、軽く下ゆでしておく。
下ゆでをしたナスの入った鍋に、にしんを炊いた汁をとり、それを水で割り、すこし薄めの汁を作る。この汁で、ナスが柔らかくなるまで5分ほど、コトコトと煮る。
煮上がったナスは、そのまま鍋におき、冷ましながら、味を吸い込ませるようにする。
にしんの鍋は、残った煮汁をこってりと煮詰めていく。
にしんとナスを、それぞれ器に盛り、にしんの方にだけ、煮詰めた煮汁をかければ出来あがり。
この2つの鍋で作る、ニシンとナスの煮付け、やはりさすがに、ひとつの鍋でやってしまうより、はるかにうまかった。
たしかに、にしんはこってりし、ナスはあっさりしていたほうがうまいのだ。
こってりと甘辛いにしんを食べて、それからその後に、あっさりしたナスを食べる。するとにしんとナスとの味のコントラストに、
「ほっ・・・」
とできるところがある。
この繊細な感覚は、京都の人ならではと、いえるのだろうな。