この店はすごい。
店の外観はそれほど変わったところはないのだが、中に入るといきなり工事現場風。
向かって左にカウンターがあり、10人程度かな、が座れるようになっているのだが、奥にセメントを混ぜる機械のようなものがあり、その脇にはセメントの袋のようなもの、そのほかに古びた冷蔵庫が二台、工具棚のようなものもあったりする。
しかしその機械はよく見ると麺を打つ機械で、セメントの袋のようなものは小麦粉や何かが入ったものなのだ。
この店は麺も自分で打つのである。
しかしこの雑然とした雰囲気はすごい。
入り口近くの販売機で食券を買うのだが、メニューは「ラーメン500円」と「ラーメンとごはん600円」、「ラーメンと焼きめし700円」、それにビールと、麺とご飯の大盛りのみ。
とりあえずラーメンと焼きめしというのにしてみた。
50歳くらいだろうか、男性の店主が一人で切り盛りしていた。
まだ夕方5時の夜の部の開店直後だったが、他に3人ほどお客がいた。
豚骨の臭いがぷんぷんしてくる。
ラーメン。
まずこの盛り付け。
チャーシューが花びらみたいになっていて、真ん中にねぎが山盛り。
玉子が一個分添えてあり、下にはもやしが隠れている。
チャーシュウを花びらみたいにするのって、どういうことなのだろう。
何だかは分からないが、何かを伝えようとしていることは分かる。
かなり臭みのでた豚骨スープで、それだけだと食べづらいので、卓上にあるコショウとにんにく、すりゴマ、一味唐辛子で味をととのえる。
広島ラーメンの王道である陽気やすずめなどでは臭みを全くなくした端正な豚骨スープを出すのだが、この店はそれらに対するアンチであるかのように、素材がもともと持つ味である臭みをまっすぐ出し、それと中和させる意味で大量の青ねぎと強い味の調味料を使う。
韓国などの料理の考え方と同じなわけだが、盛り付けの毒々しさといい、この味といい、何となく「裏広島ラーメン」という風情だ。
店主が自分で打った麺は極細で黄色が強く、ちょっとモソモソした感じ。
それを固めにゆでていてなかなかうまい。
そして焼きめし。
チャーシューやコーンやハムや、けっこう色々具が入っていて、それがパラパラに仕上げられている。
味は弱めに付けられているのだが、まず卓上にウスターソースがあるのでそれをかけてもいいし、その他ににキムチ、高菜ゴマ和え、紅ショウガ、たくわんがどっさり置いてあって、それをおかずにして食べてもいい。
これらはラーメンのトッピングにしてもいいのかもしれない。
しかしこのトッピングにしても、ラーメンの内容にしても、ラーメンと焼きめしをあわせて700円とは驚異的な安さだ。
ところでこの店主、かなりのこだわりの持ち主のようで、スープや麺などの主要部分にこだわっているのはもちろんなのだが、その他にも盛り付け方に見られるような細かいこだわりが色々あるのだ。
たとえばもののしゃべり方。
「ラーメンお待ちどう」と言うとき、語尾がやけにのびて、しかも気合を入れるというか何というか、昔の八百屋とかみたいな感じなのだが、
「らーめんおまちどおおおうううぅぃぃぇぇ」みたいになる。
「ありがとうございました」は、
「ありがとうございましたああああぁぁぁぇぇぃぃ」みたいな。
威嚇されてるのかな、と思うような妙な緊張感がある。
そのわりには上の写真にあるとおり、焼きめしの入った皿がうさぎさんの柄で可愛いのだ。
このミスマッチ、何だかは分からないが、何かをかもし出している。
店内のBGMは東京スカパラダイスオーケストラだし。
同じようにこの店の名前、「ひよこ」。
やけに可愛い名前だが、店の雰囲気からするとひよこがサングラスでもかけていそうなイメージである。
そして冒頭の写真の看板の「ひよこ」の文字、「よ」だけ横に飛び出ている。
これもよく意味は分からないが、何かを伝えたがっている感じはする。
ひよこ (ラーメン / 稲荷町)
★★★☆☆ 3.0