いよいよ牡蠣が、旬をむかえることとなる。
広島に2年近く、住んでいたから、牡蠣にはやはり、思い入れがある。
牡蠣の鍋物といえば、土手鍋。土手鍋といえば、広島となるわけだけど、考えてみたら、広島で土手鍋を食べたおぼえがない。
広島の人ははたして、土手鍋を食べるものなのか。ツイッターとフェイスブックできいてみた。
「広島の人って、やっぱカキを食べるのに、土手鍋にします?」
11名の人が、回答を寄せてくれたが、その中で、「土手鍋にする」と答えてくれたのは、1名のみ。
それも、鍋肌に味噌でちゃんと土手をつくるのではなく、味噌をだしに溶かし込むのだそうだ。
回答してくれた人の多くが、広島で土手鍋をする人は、少数派なのではないかと言っている。
回答で、一番多かったのが、
「寄せ鍋や水炊きなどの、ふつうの鍋に入れる」
これは6名。
あとは、
「焼きガキ」4名。
焼きガキとは、殻のついたままの牡蠣を、直火で焼くことだ。
「カキフライ」3名。
「酢ガキ」2名。
「ソテー」2名。
「昆布蒸し」1名。
回答のなかで、
「まさに広島男児だ・・・」
と思ったのが、次の回答。
「調子悪くなるまで酢ガキ食べて、寝床から起きたら焼きガキ食べます」(30代男性・彫刻家)
「調子が悪くなる」とは、「あたる」という意味だろう。
牡蠣には「生食用」と、「加熱用」がある。
生食用と、加熱用だと、生食用のほうが、新鮮なのだろうと思うところだが、実はこの違いには、鮮度は関係ない。賞味期限がおなじなら、どちらもおなじ時に出荷されている。
生食用と加熱用は、「採取場所」と「殺菌方法」が異なる。
生食用の牡蠣は、清潔な海域で育った牡蠣を、さらに数日間、オゾン処理した減菌海水で育て、牡蠣についたバクテリアを殺菌したうえで出荷する。
清潔な海水は、逆にいえば栄養分に乏しいことになるから、そこで育った牡蠣はあまり大きく成長しない。さらに殺菌処理は、牡蠣にとっては「絶食」と等しいから、その間どうしても、牡蠣はやせてしまうことになる。
それにたいし、加熱用は、清潔でないとはいえ、栄養分の豊富な海域で育ったものを、そのまま出荷するから、よく肥えていることになる。
だから生食用と加熱用では、加熱用のほうが、味がいいということになるのである。
牡蠣を生食するばあいには、生食用を食べれば、そうそうあたることはない。
実際、牡蠣にあたるという話は、一般にそれほど聞かないわけだが、広島では、毎年かなりの数の人が、牡蠣にあたって病院に担ぎこまれるのだと、知りあいの医者が言っていた。
しかも牡蠣にあたった人の多くが、
「牡蠣にあたるのは仕方ない」
と思っているという。
上で引用した男性も、あたるのを覚悟で、あくまで「うまい」牡蠣を、生で食べるということなのだろう。
人間が、自分が生まれ育った土地を愛することの、ひとつの姿を、みるような思いがする。
というわけで、牡蠣を食うなら、まず酢牡蠣。
といっても、こちらが食べるのは生食用だから、あたる覚悟は必要ない。
生食用の牡蠣は、さっと水洗いするだけでいいのだが、かたくり粉をまぶしてもみ洗いすると、さらに汚れがきれいに落ちる。
ポン酢をふりかけ、30分ばかり冷蔵庫に入れておくと、味がよくしみる。
あらためてポン酢をかけ、大根おろしと青ネギをそえ、一味唐辛子をふって食べる。
まさに季節の味である。
あとは「豚ニラ鍋」。
だしパックなどで濃い目にとっただしに、たっぷりの酒、それにみりんと醤油で味をつけ、豚肉、ニラ、シイタケ、水切りした豆腐を煮、卵でとじる。
七味唐辛子をふって食べる。
残り汁で、うどんを煮てシメる。