2011-12-07
フライパンひとつで広島の味。
「広島のお好み焼き」
広島といえば、何といってもお好み焼きとなるわけだけれども、広島の人はお好み焼きを、家で焼くことは、それほど多くないのじゃないかという気がする。少なくとも私は、広島の人の家で、自分で焼いたお好み焼きを食べたことがない。大阪では、家にはかならず、たこ焼きをやく鉄板があると聞くけれど、広島のお好み焼きは、それとはだいぶ風情が異なる。
広島の人は、家でお好み焼きを食べるばあいにも、近所のなじみのお好み屋から持ち帰るか、配達してもらうことが多いのじゃないか。広島の人は、人によっては、週にいっぺんはお好み焼きを食べるわけなのだが、それをお店から買うことに、意義を感じているところがあるとおもえる。
広島には、市内で2千軒のお好み屋があるといわれている。広島にこれほど、お好み屋が広まった背景には、やはり原爆が関係あると聞いたことがある。原爆の投下で、莫大な数の人が亡くなった広島では、原爆によりご主人をなくした、未亡人の女性が、大量に生まれてしまった。保育園などだって、完備していなかった時代のこと、小さな子供をかかえた未亡人が、自分一人でできる仕事として、お好み屋を始めることが多かったのだそうだ。
お好み屋なら、自宅を改造して店舗とすることができる。材料も凝ったものを使わないから、仕入れも難しくないし、鉄板一つあれば、その鉄板の上で、そのままお客さんに食べてもらうことにより、調理から給仕、片付けまでを、手間をかけずに行うことができる。女性一人でする仕事として、うってつけだったということなのだろう。
だから広島の人は、お好み焼きを食べることが、そういう不幸な未亡人の人たちを、自分たちなりに応援する方法でもあったのだろう。今ではもちろん、お好み屋を戦争未亡人の人たちがやっているわけではないけれど、広島の人たちにとって、お好み焼きを食べることは、今でも、原爆で亡くなった人たちを鎮魂する意味合いが、あるのではないかという気がする。
お好み焼きは、戦争直後、日本全国で、広島と同じように焼かれ、食べられていたのだけれど、広島以外の場所では、ほかの食べ物の出現とともに、姿を消していった。広島だけが、今でも当時とそれほど変わらないお好み焼きを、食べつづけているというのは、広島の人たちが戦争によってうけた傷の深さを、物語っているように思えてならない。
広島の人が、家でお好み焼きつくるばあい、ホットプレートを使うことが多い。お好み焼きは、皮の上にキャベツやら肉やらをのせた本体を焼くほかに、焼きそばやら卵やらを焼かないといけない。だからどうしても、鉄板上にスペースが必要となり、ホットプレートをもたない私は、これまでお好み焼きを自宅で焼くことを、考えたことがなかったのだが、今回広島へ行き、あらためてお好み焼きを食べ、フライパンひとつでも、できないこともなさそうに思えたから、さっそく昨日、家でやってみた。
もちろんお好みソースは、おたふくソースを、広島で買ってきた。ただこれは、京都のスーパーでも、ふつうに売られている。
薄力粉に水をいれ、適当とおもわれる程度の濃さにする。
はじめ、店で見ていたくらいのかたさにしてみたら、うまく広げられずにいきなり失敗。素人はやわらかめにしておいたほうがよさそうだ。
こちらは成功。この上に、かつおぶし粉など魚粉をふる。べつに普通の花がつおでも、たぶんそれほど問題ない。
5ミリ程度の太さに切ったキャベツをたっぷりと盛り、その上に細めのもやしをのせる。
ここで広島では、天かすをのせるが、今回肉をたっぷり使ってみたら、味は問題なかった。ラードを少しのせたりしても、悪くないとおもう。
その上に、豚バラ肉をのせる。この時点で、かなりの高さになっている。
これをひっくり返さないといけないのだが、お好み屋のコテがないから、とりあえずふつうのフライ返しを左手にもち、右手に箸という体勢で、ひっくり返すのに挑戦してみた。どうかと思ったが、意外にだいじょうぶ。
ひっくり返すと、このようにちょっと分解してしまうことになるのだが、それはまた、元にもどせば問題ない。広島の凝った店では、わざわざキャベツを分解し、上下を返して、火を均等にいれるところもあるくらいだ。
キャベツをきちんとまとめて、そのまましばらく、キャベツが十分やわらかくなるまで、弱火で蒸す。フライパンのフタをしようか、ちょっと迷ったが、フタをしなくても、きちんと蒸せた。下手にフタをしてしまうと、水気が残ってよくない可能性もある。
キャベツが蒸し終わったら、いったんこれを、皿にとり出しておく。
今度は焼きそば麺を、ラードをひいたフライパンで焼く。ソースでちょっと、味をつけておく。水かだしを入れてもいいが、入れなくても問題なかった。
焼きそばも、焼けたらいったん、皿にとり出しておく。
次に卵。かならず油をひいてから割り落とす。テフロンだからだいじょうぶだと、油をひかずにそのまま割り落としたら、バッチリくっついてしまった。
卵は、割り落としたらすぐに、黄身をつついてちょっと混ぜ、上に焼きそばをのせる。卵がやわらかいうちに焼きそばをのせ、卵と焼きそばを、きちんと一体化させるのがポイントだ。
さらに焼きそばのうえに本体をのせ、全体をひっくり返す。
これもやはり、分解してしまうことになるが、きちんとまとめる。あとはお好みソースをたっぷり塗って、青のりをふれば、出来あがり。広島のお好み焼きには、紅しょうがはのせない。
たてよこに切って、食べる。お好み屋のばあいなら、鉄板のうえでコテで切ってくれたやつを、皿にもってくれるのだが、コテがないから、皿にもってから、包丁で切ってみた。
お好み焼きを切るのは、あくまでたてよこ。ピザのように放射状には切らない。まずたて半分に切り、さらによこに、4つに切る。
初挑戦のお好み焼きで、どういう味になるか、非常に不安だったのだが、いやいやいや、なんときちんと、広島のお好み焼きの味がした。近所のお好み屋のお好み焼きを持ち帰るのにくらべ、それほど遜色ない。
これならいつでも、広島の味をあじわえる。
お好み焼きにあう酒は、本来なら、いうまでもなくビールだ。しかし昨日は、ビールを買い忘れたため、いつもどおりの日本酒常温。
あとは、広島で買ってきた、広島菜。広島菜は、広島の名物なのだが、野沢菜とくらべ、もっとクセが少ない、ちょっと白菜に近いような、上品な味がする。
お好み焼きでつかった材料と、同じものを入れた吸物。材料をすこしでも、余らせないための作戦だ。