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2008-08-29

広島八丁堀 お好み焼き みっちゃん総本店(再訪)


言わずと知れた、広島風お好み焼きの総本山。
ここの店主が、終戦後間もない広島でお好み焼きの屋台を始め、当時は「一銭洋食」といわれて子供のおやつのような存在だったお好み焼きを、肉に卵、たっぷりのキャベツ、そしてそばの入った、大人の主食に耐えうるものとし、さらに広島を代表する食べ物にまで育て上げたと言われている。
自身の経営する直営店が4店舗、その他に暖簾分けの店が8店舗、評判の高い店が多く、この総本店も食事時や休日にはずらりと長蛇の行列ができる。
またこの店で修行した職人が自分でお好み屋を開業するという例も数多く、広島風お好み焼きの屋台骨を支えてきたと言っても過言ではない。

僕はこのみっちゃん総本店には、広島に来てすぐの時に一度来たのだが、それ以来訪れていなかった。
暖簾分けの店などもまわりながら、みっちゃんは確かに元祖ではあるが、もうすでに見るべきものはあまりない、と勝手に思い込んでいたのである。
しかし先日かんらん車に行き、そこの店主や、またみっちゃん光町店の店主など、お好み焼きの未来を予感させる人たちが、みっちゃん総本店で修行していたことを知り、この店の底力のようなものを感じた。
みっちゃん総本店は、ただ元祖であると言うにとどまらず、おそらく広島風お好み焼きの原点なのだろう。
物事は原点を知ることにより、全体を見渡せるようになるものだ。
ということで僕も改めて、広島風お好み焼きの原点をさぐりに、この店に出かけたのだ。


頼んだのはもちろん、そば肉玉。
注文してから10分ほどで出来上がってきた。
この店ではお客が何人か入ってくると、その瞬間に、鉄板に人数分の生地をのばす。
キャベツやもやし、天かすなど、すべてに共通するものを先にのせてしまい、エビやイカなどその他のトッピングは、実際に注文が入ってから入れるのだ。
客を待たせないための工夫なのだろう。
このことに代表されるのだが、みっちゃん総本店が一つ追求していることは、いかにたくさんのお客に、できるかぎり短い時間で、お好み焼きを供することができるのか、ということなのだ。

横幅5メーターほどもあろうか、巨大な鉄板には、職人が横に6、7人もならんでいる。
流れ作業になっているのだ。
入り口からいちばん近いところにいる職人は、鉄板に生地を丸くのばし、けずり節をふりかけ、キャベツ、もやし、天かすをのせ、魚粉をふりかけ、最後に肉をのせる。
そしてそれらを次に送る。
次の工程は2、3人が担当するが、送られたものに注文に応じてエビやイカなどを入れ、そして全体をひっくり返す。
しばらく蒸しながら形を整えたりするのだが、よく見るとここで、キャベツの上下が多少入れかわるようなコテさばきをしているようだった。
そして最後の2、3人は、後ろで茹でられた麺を鉄板にのせ、丸く形をととのえ、焼きが入った頃合を見計らって、蒸しあがった本体をその上にのせる。
さらに玉子を鉄板の上に割り、麺と合体した本体をさらに玉子の上にのせ、しばし間をおいてひっくり返す。
皿で食べる人のために全体をコテで切り分けて皿にのせ、ソースと青のりをかけて完成となる。

お好み焼屋もまだ屋台だったころは、職人が一人か二人で焼いていたのだろう。
しかしそれが人気となり、お客が増えるようになると、たくさんのお好み焼きを短い時間で出せるようにならなければならない。
みっちゃんの店主はそこで、当時自動車や電気製品などの工場で導入されていたであろう、流れ作業を導入した。
お好み焼屋を工場ととらえ、お好み焼きを大量生産するためのシステムを構築したのである。
それが出来るようになり、広島風お好み焼きは大きく発展しただろう。
実際みっちゃんは、駅や空港のみやげ物屋に品物を出したり、インターネット販売も請け負ったりしている。
どこかに本当にそのための工場があり、大量のお好み焼きが焼かれているはずである。

またそれと同時にみっちゃん総本店は、「鉄板で食べる」ということも放棄した。
この店の鉄板は巨大なのだが、鉄板前の椅子は5、6脚ほどしかなく、基本はテーブルで食べるようになっている。
鉄板で食べるお好み焼きは、テーブルに皿で出されるものとは味がちがうのだが、お客をたくさんさばくためには、そんなことは言ってられない、ということだろう。

そのような行きかたは時代の必然であっただろうし、みっちゃんがやらなければ、誰か他の人がやっていたかもしれない。
しかしそこで働く職人の中には、そういうやり方に疑問を感じ、屋台時代の原点に返り、もっとお好み焼き一枚一枚を丁寧にあつかうことにより、お好み焼きが本来もっているおいしさを引き出すことができないのか、と考える人も出てきたのだろう。
それが、かんらん車やみっちゃん光町店の店主だったのかもしれない。
じっさい彼らは、みっちゃん総本店の焼き方のいろいろな部分を強調したり増幅したりして、自分の焼き方を見つけているのだと思う。

みっちゃん総本店で一つ意外だったのは、調味料をまったく使わないことだ。
みっちゃんの暖簾分け店である、みっちゃんいせやや、新天地店では、かなり大量の調味料を使う。
塩、こしょう、味の素、それにたぶんガーリックパウダー、味の素とガーリックパウダーは、「ざーっ」というほど振りかける。
これはみっちゃんの元々の流儀かと思っていたがそうではなく、暖簾分けした人たちが独自にむかった道なのだろう。
みっちゃん総本店はそのようなわき道に反れることなく、昔ながらの王道を歩んでいる。
しかし調味料を使わないぶん、味にメリハリが乏しく、ぼんやりした感じがするのもまた事実なのだ。
それを調味料ではなく、焼き方でカバーして行こうというのが、上のかんらん車やみっちゃん光町店なのだと思う。

鉄板にずらりとならび、汗をぬぐいながらお好み焼きを焼く職人たちは、若い人もいるが、けっこう年齢を重ねていると見受けられる人も何人もいる。
おそらく多くは、独立して自分の店をもつことを夢見ているのだろう。
平坦な道ではないだろうが、ぜひ頑張ってほしいなと思う。
彼らこそが、未来の広島風お好み焼きを創っていくのである。

みっちゃん総本店

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