2008-08-03
DVD 『椿三十郎(リメイク)』
言わずと知れた黒澤映画の名作のリメイク。製作総指揮 角川春樹、監督 森田芳光、主演 織田裕二。藩の家老たちの不正を暴くため、立ち上がろうとする若き藩士たちが、たまたま出会った浪人、椿三十郎(織田)に、危ういところを助けられる。態度も口も悪いが、腕と頭はめっぽう切れる三十郎に、はじめは反発しながらも、徐々にひかれていく藩士たち。人質になった城代家老を助けるため、力を合わせ、困難に立ち向かっていく・・・。リメイク版の脚本は、黒澤監督が書いたオリジナル版のものをそのまま使用した。セットもオリジナル版と限りなく近いものが再現されている。
名作のリメイクだから、オリジナルより落ちることは分かっていた。しかもこの作品は、僕が今まで観た黒澤作品のなかでも、最も好きなものの一つなのだ。オリジナル版の主演はもちろん三船敏郎で、ぎらぎらし、「さやに収まらない抜き身の刀だ」と評される椿三十郎を豪快に演じている。織田裕二はそれをどのように演ずるのだろう、オリジナルと匹敵するのは無理としても、彼なりの工夫があるだろうから、それを楽しみたい、と思って観た。
しかしリメイク版、観終わってみて、映画を観て二時間がこんなに辛かったことは初めて、というくらいヒドイ出来だった。 抜き身の刀のようにぎらぎらしている剣の達人、そういう人間を演じるのは織田には無理だと、映画がはじまった瞬間にわかった。織田もたぶん、自分でも分かっていたのだろう、肩に思い切り力が入っていて、そんな織田を見ているだけで辛くなるのである。またその他の配役もいちいちヒドくて、多少良いと思ったのは、悪役の豊川悦司くらい。城代家老の奥方である中村玉緒と、城代家老の藤田まことは最悪だった。
その内容のとおり、興行成績もふるわなかったようで、製作の角川春樹は、キムタクの時代劇が40億円だったというので、それを上回る60億円、とぶち上げたらしいが、結果は惨敗、10億円ほどだったそうだ。
これはまず何より、角川春樹の企画が安易だったということだろう。過去の名作を現代風にアレンジすれば当たる、と思ったわけだが、その発想自体安易だが、さらに安易なのは、脚本をオリジナルのままにしたことだ。過去の名作を現代に蘇らせるためには、名作をきちんと咀嚼し、その上で改めて、新しい世界が生み出されなければならないだろう。映画で新しい世界を生み出すという際、脚本はその中核にあるはずだが、角川春樹にはそれが分からなかった。織田裕二を主演にすえるのなら、織田裕二なりの新しい椿三十郎を脚本から考えれば、まだもっとマシになったのかもしれない。しかしたぶん角川春樹にしてみたら、そんなことをしている暇はなかったのだ。単に手っ取り早くお金が儲けたかっただけなのだろうと思う。
それから監督の人選も最悪。森田芳光はこれまで、時代劇も、アクション劇も、撮ったことがなかったそうだ。話に聞くと、これは森田が角川に、「織田主演でやらせてくれ」と売り込んだのだという。売り込むほうも売り込むほうだが、受けるほうも受けるほうだ。森田はむかし角川映画を撮ったことがあり、そういう関係で角川も森田が可愛かったりしたところがあるのかもしれない。ぼくは前から森田芳光は嫌いなのだが、好き嫌いは別としても、椿三十郎を撮影するには、もっとマシな監督がいくらでもいただろうと思う。
またこんなひどい企画を、なぜ織田裕二が受けたのかと思う。森田が織田を選んだ理由が、「オリジナル当時の三船敏郎に、人気として今匹敵するのは織田裕二だろう」というだけの理由で、この椿三十郎という映画の主役に誰がふさわしいのか、など考えてもいないのだ。そんな馬鹿げた話に乗ってしまう織田は、もしかしたら今、何か自分が見えなくなってしまっているような、そんな状態に陥ってしまっているのかなと思った。
いずれにしてもそういう滅茶苦茶な映画なので、織田裕二を死ぬほど愛しているという人以外は、観ないほうが身のためだと僕は思います。椿三十郎を観たい人は、黒澤明監督のオリジナル版を観てください。
評価:★☆☆☆☆