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2013-05-02

【おっさんひとり推し】
池波正太郎 『そうざい料理帖 巻一』

池波正太郎『そうざい料理帖』

ぼくが檀 一雄 『檀流クッキング』に続いて、最もページを開く料理本が、
この池波正太郎 『そうざい料理帖 巻一』です。

特にひとり暮らしの男性なら、
この本は毎日の食事を考えるのに、大きな参考になるのは間違いありません。



池波正太郎はご存知の通り、『鬼平犯科帳』などで知られる作家ですが、
「食」についても大きな関心を寄せ、
食にまつわるエッセイも多数書いています。

新国劇の脚本書きから作家のキャリアをスタートさせた人で、
その後時代劇を書き続けた人ですから、
文章に趣深い、独特のリズム感があり、
読むうちに池波氏の世界に一気に引きずり込まれるのが、
これらのエッセイの大きな特徴です。

飲食店の食べ歩きについても多く書いていて、
これも非常に面白いんですが、
自分で料理をする者にとってやはり興味深いのは、
池波氏が日常的に、家で食べるもの。

この『そうざい料理帖 巻一』には、池波氏の食のエッセイから、
池波氏が家で食べているものだけを抜粋し、まとめたものとなっています。



池波氏は、自分で料理はしないのですが、
家での食事は奥さんまかせにすることはなく、
何を食べるか毎日かなりの時間を使って自分で考え、
それを奥さんに指示し、作らせていたのだそうです。

台所で食事をする家族とは別に、居間にお膳を出し、
そこで一人で食事をしていたとか。

自分の食事は奥さんが作り、家族の食事はお母さんが作ったそうですから、
池波氏は自分だけ、家族とは違ったものを食べていたことになります。



この池波氏の食事の内容が、何とも魅力的。
材料もとくべつ高いものを使うわけでもありませんし、
料理の仕方も手が込んでいるわけではないのですが、
とにかくシャレている。

小さな土鍋で、自分で材料を煮ながら食べる「小鍋だて」が、数多く出てくるのですが、
ここに入れる材料が、
たとえば「あさりのむき身と白菜」だったり、
「ハマグリのむき身と豆腐」だったり、
鶏の水炊きなら、「鶏肉と豆腐と長ねぎとニンジン」だったりなど、
非常に厳選されている。

鶏の水炊きには、「普通入るだろう」と思える白菜は、入れないわけです。



さらに材料の切り方にも、池波氏ならではのコダワリがある。

水炊きのニンジンは、普通よくやる半月切りではなく、短冊でもなく、「細切り」にする。
この細切りのニンジンが、実際に鍋に入れてみると、
意外性があり、目で見て楽しいことになるんです。



池波氏のこの感性は、
「江戸の粋」
ということになるのだと思います。

池波氏が育った戦前の下町には、
まだ江戸情緒を残した風景や食べ物がたくさんあった。
また池波氏は、時代劇を書くにあたって、
江戸時代の風俗や食べ物のことを徹底的に調べています。

「現代では失われてしまった、中世日本の良さにたいする想い」が、
池波氏が書く食のエッセイに、通底していると思います。



それから『そうざい料理帖』には挿絵が入っていて、
簡単なレシピも記されています。
イラストレーターであり、自らも料理をする矢吹申彦氏によるものですが、
これが趣きをさらに深めるとともに、
池波氏の料理を実際に作ってみようと思う際、
とても参考になるのもいいところです。



「おっさんもかなりアイディアもらっているよね。」

池波正太郎『そうざい料理帖』

バラすなよ。



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『そうざい料理帖 巻二』 ⇒ こちら



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