2011-10-28
トロトロのブリあらとシャキシャキの水菜を味わう。
「ブリあらのはりはり鍋」
寒い季節になってくると、鍋が恋しくなってくるのは、僕だけじゃないだろう。熱い風呂にはいり、鍋に日本酒。冬の夜長に、こんなに幸せな気分になれることはない。
日本人にとって鍋料理は、独特の郷愁と感慨を感じさせるものなわけだが、それも無理はない。日本の家庭料理は、元々すべて、鍋料理だったのだ。
昔は、民家の居間には、囲炉裏が切られていた。薪で火をたき、天井から吊るしたつるに鍋をかけ、そこで煮炊きしたものを、出来あがるそばから食べていた。
江戸後期になり、囲炉裏がなくなった町家でも、今度は座敷で火鉢や七輪に、小さな鍋をかける、「小鍋立て」がおこなわれるようになった。明治になり、近代化されてからも、文明開化の象徴は、「牛なべ」「すきやき」だったりする。
日本人は、食文化の中心に、いつも「鍋料理」を据えてきたということなのだろう。
鍋料理の何がいいかといえば、やはりまず第一に、「調理と飲食がわかれていない」ことだろう。
鍋は目の前で料理をしながら、同時にそれを食べていく。料理は「食べる」たのしみだけじゃなく、「つくる」たのしみも大きいものだから、両者を一体としてかねそなえた鍋料理は、食のたのしみを倍増させることになる。
また「ごはん」と「おかず」、「汁物」などが、分かれていないのもいい。肉も野菜も、ご飯も汁も、すべてが「鍋」のなかに、渾然一体としている。材料のそれぞれからでた味は、鍋のなかで混じりあい、ひとつの味となり、またそれが、材料のそれぞれに味をつけていく。
「文化が発達する」とは、「物事を分けていく」ことであると、いえる側面があるだろう。
江戸の町家でも、座敷で火をたき、部屋がすすや煙で汚れることを嫌い、囲炉裏がなくなり、「台所」と「食べる場所」とが分けられていくこととなった。またごちそう料理などで、料理の豪華さを競うときには、その「品数」が、大事になってくるだろう。
もちろん日本だって、そうやって、文化が発達してきているわけだけれども、しかし鍋料理を食べることで、日本人はつねに、「料理の原点」に立ち返ることができる。「人間がモノを食う」とは、元々どういうものだったのかを、思い出すことができるわけだ。
自分がこれほど、鍋料理を渇望するのも、そういう日本人の血を引いているからなのじゃないかと、思ったりする今日この頃なのだ。
昨日も買い物にむかいながらも、鍋にする気まんまんだった。
ブリのあらが、またうまそうなのが売っていたから、買うことにしたのだけれど、魚屋のおばちゃんに、
「ブリのあらを鍋にするとしたら、野菜は何を入れたらいいんでしょう」
ときくと、
「やっぱり水菜だねえ」
とのこと。「はりはり鍋」なのだ。
はりはり鍋は、元々は鯨をつかった鍋料理だ。「はりはり」とは、水菜のシャキシャキとした食べごたえを示すことばだそうで、こってりとした鯨の肉と、シャキシャキとした水菜の食べごたえの、コントラストをたのしむものだ。
近年になり、商業捕鯨の禁止で、鯨が手に入らなくなってしまったから、今では豚肉や、このブリなどで、はりはり鍋をすることが多いという。
あらは買ってきたら、まず表裏にきつめに塩をふり、料理するまで冷蔵庫に入れておく。塩をふり丸一日いおいて、「塩ブリ」にするのも、ブリを鍋に入れるにはいいのだそうだ。
料理をはじめるには、まず塩をふっておいたブリを、湯通しする。写真は、給湯器の80度のお湯を、そのまま注いでいる。ふつうは、鍋に湯をわかし、火をとめてから、魚を入れる。
しゃぶしゃぶとして、ぶりの表面の色が白く変わったら、湯を捨て、水でよく洗う。ぬめりや血の塊などは、すべて取り除く。
鍋に昆布をしき、まず昆布だしをとる。昆布は湯が沸騰する前にとりだす。
ブリのあらは、やはり15分くらいは煮たいのにたいし、水菜は一瞬火を通すだけで、シャキシャキ感を残したいので、先にブリだけ、火を通しておくことにする。
昆布だしに酒をドバドバと入れ、アクをとりながら15分くらい煮る。
ブリは脂っこいから、味付けにみりんを少々入れた。ただみりんは、入れすぎて、こってりさせてしまうと、汁としてすするにはイマイチの味になってしまうので、入れすぎないよう気をつける。
あとは醤油で味付けする。醤油もうすめにしておかないと、食べはじめは良くても、食べ進むとつらいことになってしまう。
はりはり鍋には、野菜はもちろんまず水菜だが、その他の野菜は、定番としては、「長ネギと油揚げ」となるらしい。しかし昨日は、長ネギに、豆腐としめじ。鍋には何だって、好きなものを入れたらいいのだ。
一回に食べるぶんの野菜だけ、鍋に入れる。水菜は、くれぐれも煮すぎないよう、気をつける。
器に盛った、ブリのはりはり鍋。
唐辛子をふって食べる。ユズの皮をきざんだのをかけてもいいらしい。
トロトロに煮えたブリに、シャキシャキの水菜の取合せは、まさにベストカップル。これにまた日本酒が、いうまでもなく、よく合う。
食べ終わったブリの出汁には、うどんを入れる。僕はこれを、翌朝食べる。
ブリの出汁も、また独特の風情があって、たいへん、うまい。