「海軍の料理」がどんなものだろうと思い、「うまい!海軍めし」という本を買って見てみたが、意外に普通で、現代とそれほど変わらない料理が、和洋中取り揃えられている。何ヶ月も航海するのに、肉や魚も普通に使われていて、どうやって調達したのか不思議になる。
海軍の料理といえば、一つは「カレー」が有名で、「海軍カレー」はブランドにもなっている。ただカレーは、べつに海軍で初めて開発されたわけではないわけで、インドからイギリスを経由して、日本に入ってきたものだ。戦前でも、家庭でカレーを作ることこそあまりなかったが、街場のレストランでは、カレーを出すところも多かったのだそうだ。
ただし「肉じゃが」は、海軍によって開発されたとされている。イギリスに留学していた東郷平八郎が、イギリスで食べたビーフシチューの味が忘れられず、艦隊の料理人に作らせた。しかし料理人は、シチューなど食べたこともなく、ワインやドミグラスソースが戦艦に準備されていたわけもなく、それで牛肉やジャガイモなどを、日本流に砂糖と醤油で味付けしたのが始まりと言われているそうだ。
海軍の肉じゃがレシピは、次のようなものだという。
- 油入れ送気
- 3分後生牛肉入れ
- 7分後砂糖入れ
- 10分後醤油入れ
- 14分後こんにゃく、馬鈴薯入れ
- 31分後玉葱入れ
- 34分後終了
- 牛肉を食べやすい大きさに切る。大根、ニンジンはいちょう切り、ジャガイモは6等分、長ネギは斜め切りにする。
- 鍋に水適宜を沸騰させ、牛肉、ジャガイモ、ニンジン、大根、長ネギの順で入れる。
- 砂糖、醤油で調味して煮る。味はうす味で。
- 汁気がほとんどなくなり、ジャガイモにすっと箸が刺さるようになったら、もう一度味を調整する。
まあこの、後のレシピに基づいて、僕はこれまで何度も肉じゃがを作っているのだが、これがけっこううまい。
出汁を使わず、味付けが醤油と砂糖だけなのが、「池波正太郎のお母さん流すきやき」とまったくいっしょなのだが、これは戦前に牛肉を料理する方法として、一般的だったのだろうか。ほとんど同じものの、汁気を残せば、池波流すきやきになり、汁気を煮詰めれば肉じゃがになるという話だ。
作り方は、非常に簡単。ただこれは、上の「煮込み」のレシピを、さらに翻訳して、自己流の作り方にアレンジしてある。
フライパンに水と、ジャガイモ、大根、ニンジンを入れ強火にかける。
ジャガイモは、切ってからしばらく水にさらしておくと煮崩れしないのは、言うまでもないことだ。
ジャガイモは、10分弱で火が通り、それ以上火を通すと煮崩れしてしまう。大根とニンジンも、同じような時間で火が通るように、5ミリ幅程度に切りそろえておく。
水の量が問題だが、これは1カップ。10分で煮詰まる水の量といえば、このくらいなのだ。フタをしめて煮るので、材料がまったく水に浸らなくても、心配しなくてだいじょうぶ。蒸し焼きのような状態になり、ジャガイモにもちゃんと火が通る。
水が沸騰したら、牛肉を入れる。こういう料理には、下手に高級な牛肉でなく、小間切れ肉がいちばんうまい。
牛肉は、入れたらよくほぐしておかないと、あとで塊になってしまう。
ここに砂糖を、好きな量、昨日は普通のスプーンで山盛り2杯(これは多少うす味目になる)、入れ、味を見ながら、辛さが丁度良くなるように、醤油を入れていく。
アクは一切取らない。「アクは取らないのが海軍式」だそうだ。実際牛肉のアクは旨みが凝縮されたものだから、多少見栄えは悪くなるが、取ってしまうのはもったいない。
フライパンのフタを閉め、水が沸騰を始めてからきっかり10分、強火で煮る。もし万が一途中で水がなくなった場合は、少し足してやる。
10分煮たら、ここで初めて、レシピとは異なり、長ネギではなく「玉ねぎ」を入れる。あとはフライパンの上下を返しながら、汁をほぼ完全に煮詰めていく。ただあまりやり過ぎると、今度は焦げてしまうので、注意が必要だ。
このやり方は、出汁も使わず、アクも取らず、調味料は砂糖と醤油だけという、非常にシンプルなものなのだが、池波流すきやきと同様、大変うまい。
「うまい!海軍めし」を見ると、海軍の料理が、何でもだしを使わないわけではなく、この牛肉の煮込みについてだけ、出汁が使われていないようだ。またほかの料理では、みりんも酒も使われているが、この煮込みでは使われていない。だから海軍でも、牛肉を煮込むには、牛肉そのものの旨みで十分で、出汁や余分な調味料は、必要ないと判断したということだ。
肉じゃがは、汁を煮詰めず、残す方法もあるが、こうして煮詰めてしまうと、「ほっくり」と仕上がるのがいいところだ。
昨日の昼飯は、一昨日のぶり大根が煮凝りになったものに、白飯。この煮凝りまで味わって、ぶり大根はワンセットといえるわけだ。