夜の散歩へ出かけよう!
所持金は千円・・・、と言いたいけれど、最近はお店でお客さんとの関係ができてきて、1杯で帰ろうにも帰りづらい雰囲気になることも少なくないから、予備に小銭もいれて、1600円をポケットにいれる。
その代わり、夜の散歩に出かけるのを2日に1回にすれば、帳尻は合うことになる・・・。
深夜1時の蛸薬師通。
オレンジ色の半月を眺めながら、東へ向かう。
ぶらぶら歩いて大宮通。
左へ行けば、キム君の店があるけれど、今日は右に向かう。
やがて見えてくる鉄板焼屋。
鉄板焼屋へはちょっとご無沙汰しているから、店長のお兄ちゃんに顔を見せておかないといけない・・・。
店長のお兄ちゃんは、僕のブログを見てくれている。
鉄板を焼きながら、前で角ハイボールを飲む僕に、ブログのことをきいてくる。
「常盤貴子って、誰なんすか・・・」
僕は常盤貴子似の女性の名前を答える。
お兄ちゃんは、その女性のことをすぐわかり、
「あー、あの子っすか、あの子はオレとおない年で、友達の友達なんすよ・・・」
うらやましい・・・。
お兄ちゃんは、器用にコテをあつかいながら、鉄板焼きを何種類も焼いていく。
僕はそれを眺め、角ハイボールを飲みながら、静かに時が過ぎていく・・・。
飲み終わった僕は、お兄ちゃんに挨拶して店を出る。
「次はどこへ出陣すか」
「まだ決めてない・・・」
大宮通をさらに南へ下り、寛游園の細い路地を覗いてみる。
路地の先にある、ホームグラウンドのバーKajuは、今日は定休日・・・。
のはずだったけれど、看板の灯りがついている・・・。
Kajuもちょっとご無沙汰していたから、マスターに最近連続して行った、キム君の店の報告でもすることにした。
店へ入ると、女性の2人客が、ちょうど入れ違いに帰ろうとするところ。
話しかける間もなく、お勘定をして店を出ていった・・・。
マスターに、なぜ今日は営業しているのかをきいたみた。
「今月は9周年なので、今週と来週は、定休日も営業してるんですよ・・・」
今月が周年の月だというのは、前に来たとき聞いていたけど忘れていた。
「それじゃマスター、せっかくだから1杯おごりますよ」
「無理しなくていいですよ、千円しか持っていないんでしょ・・・」
こうやって、お金にガツガツしないところが、マスターのすごいところだと僕はおもう。
今日は1600円持って出ていたけれども、それは言わずに、お言葉に甘えて僕は自分の飲み物だけをたのんだ。
マスターに、キム君の店の報告をした。
話を聞きおわったマスターは、
「実は僕は、バーのマスターに向いていないんじゃないかと、自分で思うことがあるんですよ」
と話し始めた。
マスターは、自分の店の雰囲気が、「ほっこり」していてほしいと思うから、その雰囲気をこわすとマスターが思った人には、入店を断ることがある。
でも近所の店へ飲みに行くと、自分が断ったお客さんが、飲みに来ていることもある。
そのお客さんのふるまいを見ると、「やはり断ってよかった・・・」と思う反面、自分が迷惑だと思ったお客さんを上手にあつかっているお店の人を見て、「自分にももっとやりようがあるのじゃないか・・・」と思うところもあるのだそうだ。
マスターは、ほかのお客さんを「おまえ」呼ばわりしたり、自分の連れの女性の頭をたたいたりなど、お客さんのふるまいとして、どうしても許せないことがある。
それは「変えようがない」と思う一方、「そんな自分がバーのマスターをやっていていいのか」と思う・・・。
マスターは、いつもそこで揺れ動き、迷うところがあるのだと、僕に話をしてくれた。
話が終わりに差し掛かったころ、お客さんがドアをあけた。
若い女性の1人客・・・。
でもマスターは、
「もう終わりなんです、ゴメンナサイ・・・」
断っている。
気がついてみたら、お店にいるのは僕一人。
「もうそんな時間なのか・・・」
僕は話のキリが付いたところで、マスターに挨拶をして店を出た。
大宮通を北へもどると、鉄板焼屋の前に横山やすしの男性が立っているのが見える。
今日はキム君の店が早じまいしたので、お客さん何人かと、こちらへ飲み直しに来たのだそうだ。
お客さんのほとんどは、顔見知りだったので、僕も混ぜてもらって、いっしょに飲むことにする。
話はあれやこれやと盛り上がる。
角ハイボールを飲みながら、僕も付かず離れずで、話に入れるようになっている・・・。
そのうち話もキリがつき、お勘定。
皆は千円札を出していたけれど、僕は角ハイボールを2杯で、ちょっと多めに500円。
それを見ていた店長のお兄ちゃん、
「千円で飲むのがお約束っすもんね・・・」
笑ってる。
奥のテーブル席から、店の入口へと歩いていくと、入口そばのカウンターに、女性の1人客がすわっている。
加藤紀子似の美人・・・。
ポケットにはまだ500円ほど残っている。
角ハイボールならあと2杯飲める・・・。
僕は女性に、声をかけてみる。
「1人で飲んでるんですか・・・」
加藤紀子似の女性、間髪をいれず、にこやかに答えた。
「バイバーイ・・・」
僕はカラスが「カーカー」と鳴くなか、とぼとぼと家へ向かった。
帰り着いたらもう1杯飲み、スズメが「チュンチュン」と鳴き始めるころ、布団に入った。