キム君は、客あしらいがうまい。
カウンターのお客さんを、たがいに関係がつながるように座らせていくから、一旦そこにハマってしまうと、帰るに帰れず、ズルズルと長居をすることになってしまう。
今夜も僕が、キム君の店へ行くと、カウンターは端の1席を残していっぱいで、お客さんの中で僕が知っているのは、真ん中あたりにすわる横山やすし似の男性だけだった。
するとキム君は、横山やすしの横にいるお客さんを3人、端の方へ1席ずらして、横山やすしの左隣の席を空け、そこに僕を座らせる。
そうすると、まず横山やすしの男性と僕とのあいだで会話が始まることになる。
そのうち九十九一の男性が入ってくる。
九十九一の男性は、横山やすしの男性と僕と、3人で前に盛り上がったことがある。
キム君は九十九一の男性を、僕の左隣に、お客さんが帰ってそこが空いたのに合わせて座らせる。
九十九一と僕、横山やすしは3人ともバツイチの一人身で、年齢が40代、50代、60代とうまいこと並んでいるものだから、キム君から「ユニット」のようなあつかいを受け、お互いなんとはなしに仲間意識を感じるように仕組まれている。
さらにそこへ、桐島かれん似の女性が入ってくる。
30代の、やはりバツイチ独身で、九十九一の男性とは、何度か話をしたことがあるみたいだ。
キム君は、女性を九十九一の隣りに座らせ、バツイチ独身の男女が30代、40代、50代、60代とならぶようにする。
これでキム君の作戦は完了したようで、女性に向かって、
「桐島さんがキーパーソンなんですから、帰らないでくださいね」
などと念を押している。
こうなってしまうと、話は盛り上がらざるを得ない。
桐島かれんの女性は、つい最近彼氏と別れたばかりだそうで、別れた事情をあれやこれやと九十九一に話をする。
僕は女性と初対面だけれども、九十九一の男性がいい人で、僕も話に加われるよう気をつかってくれるから、徐々に女性と親しくなり、「ねえさん」などと呼ぶようになる。
そうやって、関係がつながってきてしまうと、話の途中で帰るわけにもいかない気がしてくる。
キム君の店に長居をすることになり、その分、杯も重ねることになる。
僕は昨晩、夜の散歩に出かけなかったから、今夜はその分と合わせて2千円をポケットにいれ家を出ていた。
桐島かれんが来た時点で、2杯の焼酎水割りを飲んでいて、そろそろ潮時かとおもっていたけれど、美人が来たものだから、もう1杯おかわり。
話の合間にもう1杯。
そのうち桐島かれんのねえさんが決然と、「もう1杯飲む」というものだから、九十九一の男性と僕も付き合ってさらに1杯・・・。
話が終わったのは、夜も白みはじめた午前5時。
僕は2千円をきっちり使いきって、店を出た・・・。
しかも帰り途、
「たのしかった・・・」
とおもってしまうから始末に負えない。