四条大宮のキム君のバー「Spiners」では、最近連続して行っているから、だいぶ顔なじみのお客さんが増えてきた。
今日も店に入ると、九十九一似の男性と、市毛良枝似の女性とが、カウンターで話し込んでいる。
僕は市毛良枝の女性の隣にすわり、焼酎の水割りをたのむ。
そのうち熊の男性がやってきて、九十九一の1席あけた隣にすわる。
鳳蘭を30歳若くした女性がきて、九十九一と熊の男性のあいだにすわる。
市毛良枝の女性が帰ると、そこへキム兄似の男性がきてすわる。
キム兄似の男性とは、前に赤胴鈴之助のバーで、すこし話したことがある。
お客さんはみな、僕がキム君の店での出来事をブログに書いているのを知っていて、楽しんでくれている。
自分が芸能人に例えられていることも、それなりに面白がってくれているようだ。
「九十九一って、最近は知ってる人少ないのとちゃうの」
「熊の男性だけ動物っていうのはどうなのよ」
「私は土屋アンナとか冨永愛に似ていると言われることがあるけれど、似ているのは金髪だけだから、鳳蘭のほうがまだいいわ」
鳳蘭の女性は、染めなおした鮮やかな金髪に、目の覚めるようなブルーのTシャツ、ショッキングレッドに小さな白い水玉模様のスカートという出で立ち。
隣にすわる九十九一の男性と、うれしそうに話している。
キム君に以前、九十九一と横山やすし、それに僕のバツイチ3人組の中で、誰が一番好みかをきかれた鳳蘭は、「九十九一」と答えていた。
九十九一の男性は、年は僕より3つ下で、会社の若きエグゼクティブ。
人当たりがよく、他人への配慮が細やかで、その場の会話をうまいこと盛り上げる。
それに引きかえ、僕は話題がうまく振れない。
鳳蘭の女性に向かって、
「今日の格好は、赤青黄色で信号みたいですね」
などと言ってしまう。
鳳蘭は、むっとした顔をする。
鳳蘭の女性は、自分のハンドクリームを九十九一の手の甲にしぼり出してやる。
「これクレオパトラの香りなんだって・・・」
ハンドクリームをすり込んだ九十九一の男性、匂いをかいで、
「うわ、女性の匂いや、たまらんわ・・・」
僕も鳳蘭の女性に、ハンドクリームをつけてくれるようお願いする。
渋々ハンドクリームを、僕の手の甲にしぼり出す鳳蘭。
ハンドくクリームをすり込んだ僕、匂いをかいで、
「アメリカの空港の匂いですね・・・」
鳳蘭の女性は、ふたたびむっとした顔をする。
やがて横山やすしの男性が入ってくる。
入れ替わりに明日仕事がある熊の男性、九十九一、キム兄、それに鳳蘭は帰っていく。
帰りそこねた僕は、横山やすしと話し込む。
横山やすしの男性は、自分が口が悪いのを気にしているところがあるようだ。
「オレは何でも思ったことを、すぐ口にしてしまうタイプなんや、気に障ったらゴメンな・・・」
僕はそんな横山やすしが、ちょっと自分に似ているようにもおもう。
「そんなこと全然ありませんよ、むしろ裏表がなくてわかりやすいです・・・」
話が終わったのは、午前5時。
外はもう、明るくなっている。
家に帰って寝た僕は、翌日いつもとおなじような時間に起きる。
おっさんになると、若い頃のようにいつまでも寝ていられない。
起き抜けのぼうっとした頭で、昨夜のことを思い出す。
「鳳蘭の女性はいい子だな・・・」
僕はふと、昨夜鳳蘭にハンドクリームをつけてもらった、手の匂いをかいでみた・・・。
女性の匂いはもう消えて、自分の汗の匂いだけがした。