今日の晩酌。
鶏つくね、ブリ大根煮こごり、キュウリ梅かつお、ナスおひたし。
この年になるとなかなか長時間寝るのがむずかしくなっているおっさんだが、今日は久々の9時間睡眠。
寝過ぎて腰が痛い・・・。
「まだまだオレも若いな」とほくそ笑んでみるも、生え際は徐々に後退、白髪も増え、衰えは隠し切れない今日この頃。
せめて若作りしようと派手な色のシャツを着て、晩酌の肴づくりに取りかかろう。
まず作るのは、ナスのおひたし。
ナスのおひたしはわりと手軽で、しかもうまい。
グラグラに湯を沸かして、ナスをゆでる。
ゆで時間は10分前後とおもうけれども、箸ではさんでたしかめる。
水で冷やしてよくしぼり、輪切りにすれば出来あがり。
かつお節にポン酢しょうゆで食べたけれども、酢味噌で和えてもまたうまい。
次はキュウリの梅かつお。
すりこぎでキュウリをたたき、一口大に手でちぎる。
塩をもみ込み5分おき、水で洗って水気をふき取る。
おいているあいだにタレをつくる。
梅干し1~2個の種をとり、包丁でよくたたいてペースト状。
みりんとしょうゆ、かつお節をくわえてよく混ぜて、キュウリを和えれば出来あがり。
最後は鶏のつくねに取りかかる。
鶏のミンチは200グラム。
玉ねぎ半分、ゴボウ2分の1本のみじん切り。
卵黄1個、片栗粉少々、おろしたショウガ、酒にしょうゆ、塩ひとつまみを振りこんで、よく混ぜる。
粘り気が出たら、形にまとめ、フライパンで中火で焼く。
焦げ目がついたら裏返し、フライパンのフタをして、弱火で5分。
焼いているあいだにタレをつくる。
酒と砂糖は大さじ1、みりんとしょうゆは大さじ2、これをよく混ぜ、フライパンに注ぎこむ。
タレを煮詰め、よくからめつければ出来あがり。
青ねぎを振ってみたりすると色目がいい。
あとは冷蔵庫から取り出してきたブリ大根の煮こごり。
酒は今夜も焼酎水割り。
3杯飲んだら天使の気分。
キム君の店へ、昨日の借りを返しに行った。
「1杯おごるよ」
「あーざース」
キムくんと乾杯する。
カウンターの、隣にすわっているのは熊の男性。
熊の男性も、僕に向かって小さく乾杯のポーズをしてくれる。
キム君の店は、今夜は騒がしい。
カウンターの反対の端で、女性が大きな声を出しはじめた。
女性は60歳くらいのスナックのママ風、隣にすわる同年代の男性に向かい、何やら怒っている。
「どうしてあなたは、そうやってウソをつくの・・・」
女性はひとしきり怒ると、気が済んだらしい、キムくんに向かって、
「ジンリッキー2杯ね。キム君も1杯飲んで・・・」
ふたたび機嫌よく、男性と飲みはじめた。
真ん中あたりでは、若いカップルが何やら深刻そうに話をしている。
カップルの男性が、カウンターに肘をつき、頭を抱えている。
横から常連さんが、相談に乗っている。
男性のお客さんが入ってきた。
年の頃は30代前半、田原俊彦にも似たその男性は、僕の隣に空いていたカウンターの端にすわると、
「今日失恋しました・・・」
キム君にいった。
「あー、やっぱりダメだったんすかー」
キム君も接客の合間合間に、男性の話を聞いている。
「いやほんま、へこんでいるんですわ・・・」
田原俊彦の男性は、気持ちを整理するため話しがしたいらしく、キム君が離れているときは、隣にいる僕と熊の男性にも話しかけてくる。
「ちょっと一方的にのめりこみ過ぎたのかもな」
と熊の男性。
「でもそんなに真剣な恋ができて、幸せなことじゃないですか」
と僕。
キム君は、落ち込む男性に向かって、店のBGMにバラード曲を連発する。
愛を歌い上げるバラードを聞くと、さらに落ち込む田原俊彦の男性。
「この曲、彼女といっしょにカラオケで歌ったんですよ・・・」
そのうちカウンターに突っ伏して、肩を震わせながら嗚咽をもらしはじめた。
他のお客さんはみな帰ってしまった店内、帰るに帰れなくなった、熊の男性と僕。
嗚咽をもらす田原俊彦の男性に、あれこれと励ましの言葉をかける。
「これ飲んで元気出してくださいよ・・・」
キム君はビールをおごる。
しばらく突っ伏していた田原俊彦の男性は、やおら起き上がってビールを飲み干し、
「家に帰ってもう寝ます・・・」
お勘定をして店を出ていった。
取り残された、熊の男性と僕・・・。
顔を見合わせ、苦笑いすると、それぞれお勘定をして家路についた。
ぐったりと疲れたけれど、少しだけ達成感があった。