豚肉の卵とじは、ニラを入れるのが定番だと思うけど、青ねぎでももちろんいい。あとは春菊と油揚のすまし汁。
1カップのだしに酒とみりん大さじ2、うすくちしょうゆ大さじ1.5、塩少々で甘めに味つけ、豚コマ肉としめじを弱い火で煮る。
豚肉の色が変わったら、片栗粉大さじ1に水大さじ2の水溶き片栗粉でトロミをつける。
トロミがついたら、ざく切りの青ねぎを入れ、間髪入れずに溶き卵をまわし入れる。
フタをしてひと煮立ちさせて火を止めて、しばらく置いて卵を蒸らす。
七味唐辛子をふって食べる。
トロミが利いた、やさしい味。豚肉はあまり煮ないでやわらかく仕上げる。
すまし汁は、2カップのだしなら酒大さじ2、うすくちしょうゆ大さじ1.5、それに塩少々で味つけする。
まず油揚げ、それからしめじと春菊の茎の固いところを煮て、春菊の葉を入れたらひと煮立ちさせて火を止める。
あればユズの皮を浮かべて食べる。
青菜のすまし汁は、つくづくうまい。春菊としめじが、またよく合う。
毎週金曜に行くことにしている四条大宮のバースピナーズの入り口を入ると、
「遅いわ、高野さん。」
九十九一が声をかけてきた。
早い時間から来ていた九十九一は、ぼくが来るのを待っていてくれたらしい。
先週は、九十九一は来られなかったし、出版記念パーティーでも
あまり話ができなかったから、会うのは3週間ぶりになる。
九十九一の隣には当然のごとく、桐島かれんが座っている。
「最近、高野さんのブログはつまらないですよ。
九十九一も桐島かれんも、全然登場しないじゃないですか。」
九十九一は不満気な顔で言う。
「あまり書き過ぎるのも何かと差し障りがあるかと思って」と答えると、
「いやそんなことないですよ、どんどん書いてください。」
九十九一も桐島かれんも、自分が登場するのを楽しみに
ぼくのブログを見てくれているところがあるらしい。
桐島かれんは九十九一のお湯割り焼酎に入っている梅干しを、
マドラーで突き刺してグラスから取り出すと、九十九一の口元へ持っていく。
九十九一は口に入れた梅干しを、しばらくしゃぶると手で取り出して、
今度は桐島かれんの口に入れる。
「いやお二人、仲が良さそうじゃないですか。」
ぼくの問いかけに、九十九一と桐島かれんはニヤリと浮かべた笑みで答える。
「でも高野さんは、遠距離恋愛なんて大変ね。」
桐島かれんはしゃぶり尽くした梅干しを灰皿に取り出してぼくに聞く。
「仕事も忙しいみたいだし、なかなか会えないですね。」
ぼくは答える。
「寂しいでしょう、目が寂しそうだもん。」
桐島かれんは大きな目をクリクリとさせ、ぼくの目をのぞき込みながら言う。
「でも仕方ないですからね。」
努めて平静を装い答えるぼくを、桐島かれんは「ほんとかな」と言いたげな顔で見る。
付き合い出したのは、ぼくとほぼ同時期の九十九一と桐島かれんだが、
この3週間で、ずいぶん進展があったようだ。
桐島かれんに以前は見られたつらそうな様子は、今は微塵も感じられない。
「それじゃあ、お先に失礼しますわ。」
九十九一が席を立つ。
一緒に席を立ち、コートを着込んだ桐島かれんは、こちらに歩み寄ると
後ろからぼくを抱きしめ、
「がんばってね」
とささやいた。
さらに続けて桐島かれん、
「私たち、山は越えたから。今は幸せ・・・」
満面の笑みを浮かべてぼくを見て、九十九一と店を出た。
「ずいぶん差をつけられたね。」
がんばるよ。