この所中華そばに現を抜かしているわけだが、僕にはカレーという課題もあったのだ。
広島市内の目ぼしいカレー屋も、そこそこ一通り、訪ね歩いた所で、この百番目のサル、僕が広島で一等最初に来たカレー屋で、おいしいとは思ったのだが、その味を改めて、確認しなければいけなかったのだ。
別にいけなくはないが。
今日は雨、チャリンコ乗りにはつらい天気だな。
だったら遠出せずに、近場で済ましておけばいいものを、思い立ってしまうとどうも、行かずにはおれない性分なのだ。
この店、目立った看板も出しておらず、カレー屋だとは気がつかずに通り過ぎてしまいそうな佇まいなのだが、土曜の午後2時、少し時間を外したつもりだったが、席は満員、店内で二人ほどが順番待ちをしていた。
こりゃ、もっと早い時間は、ずらっと行列できていたのかもな。
口コミサイトでの広島カレーランキングでは、堂々一位だ。
店内はこげ茶と白の、落ち着いた趣き。
壁一面に茶碗や皿が所狭しと並べてあるのだが、これは売り物。
年に何度か、店主が群馬だか栃木だかまで、買い出しに行くのだそうだ。
これに象徴されると思うのだが、店主は坊主刈りに黒い丸めがね、穏やかな、陶器をじっと眺めるのがいかにも似合いそうな、丁寧な感じの人。
カレー屋の店主って、こういう穏やかな感じの人が多いよな。
じっくり煮込む、というのが性に合うんだろうな。
この店はメニュー構成としては、トッピング方式を取っていない。
多くのカレー屋は、ソースが一種類か、まあ二種類か、決まっていて、そこにカツだのハンバーグだの野菜だのを色々トッピングすることで、バラエティーを出している。
しかしここは、「欧風カレー」というのが、ポークとビーフとエビの三種類、「インドカレー」がチキンとエビ、それに「中間カレー」だっけな、というのが最近出来たみたいで、それは野菜ときのこ、基本はそれだけ。
同様にほとんどの店が採用している辛さ指定も、この店ではできず、欧風が甘口、インドが辛口、中間が、その中間、というように固定されている。
僕はトッピングとか、辛さ指定とか、結局店が伝えようとしている味が何なのか、よくわからなくなってしまいがちであまり好きじゃないので、いいんだよな、この店は。
やはりあまり客に媚びずに、これだと思うものを直球で出してほしい。
ということで僕は、メニュー筆頭のポークカレー、680円、それの中盛100円増し、それに300円増しでサラダとドリンクまたはデザートがつくセットを頼んだ。
まず初めに漬物が出てくる。
らっきょう、福神漬け、それに緑のは、きゅうりのキュウちゃんみたいなやつ。
サラダ。
ドレッシングは、カレー屋がほぼ例外なく、不思議だが、採用している、醤油味の和風ドレッシング。
カレーの味の邪魔にならないってことなのかな。
りんごが乗っているのが嬉しい。
そしてポークカレー。
このカレー、味の方向性としては、他の店に比べて、「おうちのカレー」にいちばん近い。
やはりカレー業界としては、最大のライバルは他店ではなく、家で食べるカレーなのだろうと思う。
トッピングとか、辛さ指定とか、そういうのも、おうちのカレーとの差別化を図るために導入されているんだろうと思うが、っていうか今思ったのだが、ここはそんな小手先の戦法は取らないんだな、まさに王道、日本人の大好きなおうちのカレーの味、それをそのまま、しかも100倍位おいしくして出しているのだ。
100倍というのは大げさだが。
しかしすごいな。
とにかく丁寧に作られているという感じがする。
カレーは丁寧に作れば作るほど、おいしくなるからな。
その象徴が、このカレー、それこそ丁寧に炒めた細切りの玉ねぎ、これが考えられないほど大量に入っている。
ソースを一さじすくうと、そこにかならず、10本位のしんなりした玉ねぎが入ってくるのだ。
カレー一杯で、玉ねぎ一個分、というのは、これも大げさだが、かなりの量が入っているのは間違いない。
だから味の基本は、このあめ色玉ねぎの味。
その甘みと風味、やっぱりこれだよな、日本人のカレーは。
しかもそれ以外に、あまり余分なものが入っている感じがしない。
シンプルかつストレート。
大したものだ。
辛さは、僕には十分、普通の店の中辛位な感じ。
きちんと油を落とした豚ばら肉が、けっこうたくさん入っている。
食後のアイスティー。
ここは器がまた、さすがいちいち厳選されていて、落ち着くんだよな。
市内のカレー屋、いい店は色々あるが、本格インド風ではなく日本風カレーについては、僕はとりあえず、この店がいちばん好きかな。
百番目のサル (欧風カレー / 土橋、小網町、十日市町)
★★★★☆ 4.0