前にコメントでこの店を教えてもらっていたので、行ってきたのだ。北野天満宮からすぐ近くのところにあるのだが、あの辺は京都では下町ということになるのかな、まだ京都の全体を把握できていないから、よく分からないのだが、古い商店街がずっとあって、興味深い地域だった。京都は商店街が多いよな。世の商店街は郊外のスーパーに押されて崩壊寸前のところも少なくないが、京都はそうではないのかな。
中立売通りという商店街の、わりかし外れにこの店はあって、コメントでは「屋台風」とのことだったが、それより「バラック風」と言ったほうがぴったりくるな。戦後のバラックは僕は知らないが、韓国の市場なんかによくある、出店風の店、この一角は全てそういう作りの店になっていて、精養軒は先代から入れて40年だと言っていたから、そんなに古いことはないのだが、どうしてなのかな、面白いな。
店内はカウンター席が4、5席に、テーブルが2つ。愛想がなく雑然としていて、メニューも見あたらないが、あとで聞いたら紙に手書きをしたものがクリアフォルダに入ってその辺に置かれていた。僕はこういう店、好きなのだよな。教えてくれたのはこのブログを見ていてくれた人だから、僕の好きそうな店をよく知っているのだな。
ビールは店の外にある冷蔵庫から自分で取るようになっていて、それに餃子を注文。餃子は注文があってから初めて、包むようになっている。持ち帰りの場合は、皮と餡をべつに渡す。「京都ではここしかないだろう」と店主が言うほどの、独特な餃子で、かなり大ぶりなのだが、皮がとても薄く、包んでから焼くまで時間を置いてしまうと、皮が溶けてしまうのだ。実際この餃子、火に当たった面はバリッと固いのだが、全体は薄い皮とペースト状になった肉がとろけるようで、そこに歯ごたえのあるニラが入っていて、これは何だろうな、昔ながらの餃子とも思えるのだが、でもたしかに、思い返してみて、こういう味は食べたことがないのだ。
この店では餃子の皮とラーメンの麺は自分で作っていて、店主のこだわりかと思ったらそうではなく、3年前にこれまで仕入れていた神戸の製麺所が、店主の病気で廃業してしまい、その店は跡継ぎや弟子もおらず、他の製麺所を色々当たったが、欲しいものは見つからず、仕方なく、その製麺所にしばらく通って作り方を習い、自分で作るようになったのだそうだ。廃業したのは名人と呼ばれる、賞までとった職人だったので、同じ味を出すことは未だにできないが、だいぶ近づいてこられたのだとか。この餃子の皮もそれだけの苦労をして、妥協せずにやってるものなのだ。
そしてラーメン。澄んだだしに醤油味で、ニンニクとショウガの風味がぷんと香る、昔ながらのタイプのスープに、細めのちょっと縮れた麺。麺はそれほどつるつるの、水分が多く含まれるタイプでなく、ちょっともっそりしていていい感じだ。脂身の多い、よく炊いた薄味のチャーシューに、濃く味付けしたメンマ、細もやしに青ネギ。こういうラーメン、僕は好きだな。店主によると、京都でも40年前は、皆こういうラーメンだったが、今はどんどん新しいラーメンが出てきて、こういうのは絶滅種ですよ、とのこと。だしは鶏ガラかと聞いたら、いやそれだとあっさりしすぎるので、豚骨だしも入っているのだそうだ。でもそれを表に出さずにやるところが、これなんですよ、と、二代目の若い店主、左腕をパンと叩いてみせた。
誠養軒 (中華料理 / 北野白梅町)
★★★★☆ 4.0