「三八系」という言葉をこれまで、「みっちゃんや八昌がやっている焼き方、以外の総称」として使ってきた。意味合いとしては、みっちゃんや八昌が編み出した焼き方を現在の主流ととらえ、三八系の焼き方とは、みっちゃん・八昌以前に広島でお好み焼きが焼かれていた時の、その「元々のやり方」である、ということである。そしてその特徴は、生地を鉄板に伸ばしたら、まず麺をそこに載せてしまうこと、それからキャベツを蒸らすとき、上からアイロンで押し付けることである。
しかしこれは恐らく、あまり適切な言葉の使い方ではない。まだ断言して言うほど、広島でお好み焼きを食べていない訳だが、恐らく、三八の焼き方は、それ以前の焼き方と同じではない。三八の、去年亡くなった訳だが先代のご主人は、お好み焼きの焼き方について、それ以前の元々のやり方を踏襲しながらも、新たな境地を開拓しているのである。たぶん。
僕は古いお好み屋を三軒知っている。一つは自宅近くにある「さざんか」、次もやはり自宅近くにある「ふくま」、もう一つは三八の先代の出発点ともなった、「一休」である。
さざんかは50年前、ふくまは今の女将は27年だが、先代を含めると40年前から営業していて、この二軒はとくべつ関係は無いようだが、焼き方の基本はよく似ている。鉄板に生地を伸ばすと、キャベツやもやし、肉を積み上げる。両店に共通するのはまず、このキャベツの切り方、幅が太いのだ。5ミリから1センチ程もある。次にそれをひっくり返し、上にアイロンを載せたり、さざんかの場合はコテで押さえて蒸すのだが、両店とも、三八のようにぺしゃんこに潰して、キャベツが水分を放出して、鉄板上で音を立てる、という事はない。三八のキャベツが極細に切ってあるのに比べて、こちらは太いから、三八のようにキャベツの水分を放出させることは、物理的に無理であるという事もあるだろう。あくまで火の通りを良くする為に、上から押さえている、という感じである。
一休は36年前からの営業だが、ここも先代から数えると50年近いのかも知れない。ここは上の二店とは異なり、キャベツは極細切りである。しかしあまり強く押さえ付けない事は、上の二店と変わりがない。火を通す時間も短いので、キャベツは生っぽい感じで仕上げられるのだが、それがこの店の持ち味になっている。
これらの店が、「お好み焼きの元々の焼き方」という物を今に伝えていると考えるとすると、「極細に切ったキャベツを使い、上から強く押さえ付けて、キャベツの水分を放出させる」というやり方は、三八の先代が始めた事なのではないかと思うのである。
という訳で、前置きが長くなったが、「タッグ」。
この店はもともと、「三八なお」という名前で、廿日市で営業していたが、名前を変えて、こちらに移転した。女将は「三八」で3ヶ月間、修行したそうだ。なのだが、女将の焼き方は三八と大きく違うところがあって、それは麺の扱い方である。
三八では、鉄板に生地を伸ばすとまず、そこに味を付け、炒めた麺を載せるわけだが、ここでは麺は載せずに、キャベツともやし、肉で本体を構成し、麺は本体とは別に炒めはじめる。本体をひっくり返してじゅうぶん蒸らし、さらにアイロンで押し付けてキャベツの水分を放出させ、そのあと、いちばん上にある皮を剥がして、そこにソースと隠し味の醤油で、時間をかけて炒めた麺をのせ、皮を戻すのである。
何故そのようなやり方をするのか訊いてみると、三八と同じように麺を本体の中に入れてしまうと、キャベツの水分で麺がふやけ、美味しくなくなってしまうからなのだそうだ。三八はなんと朝の6時から、一日で使う分の大量の麺をいため、ソースとイカ天かすの味をつけ、それを冷まして袋に入れて、さらに冷蔵庫に入れて冷やす、という事をやっているのだそうだ。そこまでするから、あのように放出されたキャベツの水分にさらされても、麺がふやけてしまわないのだと言う。
なるほど、そうだったのか、三八の店主はそこまでしてでも、キャベツの水分を放出させるという事にこだわったのである。
肉玉そば、600円。コチュジャンを入れるかどうか、訊いてくれるのだが、今回はガーリックだけが入ったものを頼んだ。
キャベツを見たことも無いくらい、大量につかう。それもキャベツを積み上げるとき二段階に分け、半分積んで、昆布粉をふり、さらに残りの半分を積むようにしている。きちんと味をつけるのだ。そのキャベツにきっちり火が通り、ほっこりとして美味しい。ソースはミツワソース、ガーリックとこしょうが利いて、全体として辛目の味に調整されている。肉が三八と同様、きっちり5枚、「日」の字に並べられるところも嬉しい。
女将は最近、焼き方について迷うところがあり、お客さんからも「生麺を使って店でゆで、それをパリッと焼き上げる、みっちゃん・八昌式のやり方をしたらどうか」などとアドバイスされることもあるそうだ。
しかし頑張って欲しい。三八の焼き方は、今の主流ではないが、ただ古いのではなく、この焼き方でしか出来ない、独自の味の世界があるのである。ぜひそれを追求してもらいたいなと思う。生意気だが。
タッグ (三八なお) (お好み焼き / 古江)
★★★☆☆ 3.0
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