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2011-09-17

魚屋で買ったぶりのアラはうまかった

京都へ来てまずびっくりしたのは、ラーメンの味の濃さだ。京都というとやはり「薄味」のイメージがあり、むかし流行った「京風ラーメン」も、和風だしを使った薄味だった。ところが実はこの京風ラーメンは、京都とは何の関係もなく、他県の人間が京都をイメージして創作したものなのだ。京都には京風ラーメンの店などなく、京都のラーメンは、ごく一部の例外を除いてすべて濃い。

全国で最も知られている京都のラーメンは、「天下一品」だ。ご存知の通り天下一品は、ドロリとした濃厚なスープが特徴となっている。他にも有力なラーメン屋はいくつもあるが、それらもすべて、スープは濃い。京都では天下一品の「こってり」したラーメンに対して、「あっさり」と呼ばれる種類のラーメンが多数あるのだが、それらもラーメンの一般的な分類から見れば濃い方に入るだろう。天下一品に比べてあっさりしている、というだけの話で、ほとんどの京都のラーメンは、東京のいわゆる「中華そば」などよりよっぽど濃い。

京都でももちろん、料理屋などの料理は薄味で仕立てられているわけで、このギャップはどういうことなのか、しばらく解らなかったのだが、要は「TPO」なのだ。

これは京都が千年にわたって都だったことと、大きく関係していると言えると思う。都だった京都へは、全国から様々な食材が集められただろう。また一方、京都は内陸部にあり、海も遠いから、京都ならではの食材と言えるようなものは、どちらかといえば貧しかったに違いない。だからおそらく京都では、食材にこだわるのではなく、手に入った食材に対し、いかに手をかけ、ていねいに味付けしていくかというところに、料理の力点が置かれるようになった。野菜などに対しては、薄口の味付けをするのだけれど、肉や野菜を炊いたりする時には、こってりとした濃口の味付けをするということなのだ。

麺類も、京都は「うどん」文化であるという感じもするが、必ずしもそうでもない。うどんが中心にはなっているが、そうこだわっているようにも見えず、京都には蕎麦屋の名店も多いし、実際「にしんそば」は京都の名物ともなっている。


祇園南座にある「松葉」という店が、にしんそばの発祥とされているが、このにしんそばはけっこうすごかった。

にしんそばというと、蕎麦の具としてにしんを乗せただけの、お手軽な料理という感じがする。実際京都でも多くのそば屋では、にしんそばは、そばににしんを乗っけただけだ。でもこの松葉のにしんそばは、上の写真で、どんぶりの左側に顔を出している茶色いものがにしんなのだが、このにしんが、麺の上ではなく、下に隠れるようになっている。たぶん作るときに、まずにしんを入れ、その上に麺を乗せ、上からだしを注ぐというようにしているのだと思う。

これを食べるとどうなるか。まずはそばを普通に、薄口のだしで食べるということになる。ところが実は、どんぶりの底に、にしんを炊いたこってりとした甘辛い煮汁が隠れているのだ。好きなタイミングでどんぶりをかき回せば、蕎麦のだしは一気に濃口に早変わりすることになる。こうして客に、味の変化を楽しませようという趣向なのだが、いかにも京都らしい、手の込んだやり方だと、つくづく唸った。


ここしばらくグルメシティにハマり、ずっとグルメシティばかりで買い物をしていたのだが、最近はまた、三条会商店街へも行くようになっている。商店街の店というと、スーパーより高いイメージがあったのだが、よくよく見てみると、実際にはそんなことはない。たしかにスーパーの特売日の値段に比べれば、個人商店の値段は多少高めにはなってしまうし、またスーパーならどこでも置いてある、ブラジル産の激安鶏肉などは、個人商店には置いていないから、そういう意味で多少高いと言えなくもない。しかし例えば、京都産の野菜などは、スーパーの半額とか、それ以下とも言える値段で売っていたりするから、特売日はスーパーへ行き、それ以外の日は商店街で買うというのが、いちばん賢いやり方であるようにも思う。

しかし何といっても個人商店の良さは、店の人といろいろ話しながら買い物ができることだ。昨日はいつも行く魚屋で、おいしそうなぶりのアラが、280円という低価格で出ていたから、これを使ってぶり大根を作るやり方を、根掘り葉掘り聞いてみた。


この魚屋のおばちゃんが教えてくれる、ぶり大根の作り方というのが、いかにも京都の人らしいと思うところなのだ。

ぶり大根は、多くの料理の本に、切り揃えた生の大根と、湯通ししたぶりのアラを一緒に鍋に入れ、1時間くらいコトコト煮ると書いてあるだろう。べつにそれで、ぶり大根の作り方として何の不満もないと思うところだが、京都の人はちがうのだ。

魚屋のおばちゃんによれば、まずぶりのアラだけを、こってりと煮付けてしまう。いわゆる強めの中火で、煮汁を煮詰めながら炊くやり方だ。20~30分してぶりのアラの煮付けができたら、次にその煮汁を別の鍋に少し取り分け、水で薄めて、その汁で下ゆでした大根を炊くというのだ。一緒に炊いたのでは、魚にとっても、大根にとっても、中途半端な味になってしまう。だから別に炊くことで、魚はあくまでこってりと、そして大根はすこし薄味に、仕上げるということなのだろう。京都の人は味付けについて、ここまでこだわるということなのだ。

ただ昨日は、このやり方をしてしまうと1時間以上、鍋の前を離れられなくなってしまうことになるから、いつも通りぶりと大根を一緒にコトコト煮て、ぶり大根を作った。


というわけで出来上がったぶり大根なのだが、このぶりのアラ、死ぬかと思うほどうまかった。ぶりのアラはスーパーでも高いから、カンパチのアラでアラ大根を作ることが多いのだが、やはりぶりは全然ちがう。脂が乗っていて、トロトロととろけそうになっている。しかしぶりにしても、これほどうまいのはこれまで食ったことがなかったから、やはり魚屋はエライ。これからぶりが旬になってきたら、これは気が狂ってしまうかもしれないな。


八百屋で買った、京都産のナスの塩もみ。キズ物だからと、5本100円で売ってたが、これはスーパーの3分の1の値段だ。今時のナスは瑞々しくて甘くて、醤油だのをかけてしまうのはもったいない。


あとはセロリの浅漬に冷奴で、日本酒の常温を2合飲んだ。