昨日の京都は、暑くもなく、寒くもなく。
雨も降っていないが、かといって晴れてもいない。
昼前にブログを書き終え、ベランダで煙草を吸いながら空をながめて、こういう中途半端な天気の日にこそ、京都を見ておかなければいけないと急に思い立ち、嵐山へ出かけることにした。
いやまあ、それはただの取ってつけた理由であり、その実景色がよいところで昼酒をのみたくなっただけなのだ。
嵐山は観光地だから、飲食店はほとんどが観光客目当ての店となるわけなのだが、昼酒におすすめのスポットというものがないわけではない。
嵐電嵐山駅を降りたら前の通りを左へ行く。
この道沿いの店は、あまりロクなものがない。
渡月橋に出たら、これを渡らずに川沿いの道を右へ行く。
そうすると右手に吉兆などの料亭が見えてくるので、金を無駄づかいしたい人はそちらへ行ったらいい。
でもその向かいあたりに、川に突き出たオンボロな小屋みたいなお茶屋があったり、さらにその奥へ、山にむかって進んでいくと、山の木々に囲まれて、これまたオンボロな食堂があったりする。
どちらも川に面していて、窓にガラスはなく、というより窓というもの自体が存在しないオープンスペースになっているから、この時期桂川のゆるやかな流れをながめながら昼酒をのむというには、うってつけの場所となっている。
どちらもロクな料理はないが、この観光地らしからぬオンボロ具合は妙に落ち着くから、ぜひ行ってみることをおすすめするのだ。
昨日は川に突き出た小屋のほうで、おでんに冷や酒。
酒をのんだら、そのまま川沿いを歩いていくと、急な石段があるから、そこをずっと上がっていくと、亀山公園の展望台にたどりつく。
普段はビルの中で暮らしているから、やはりどうしても時々は、こういう景色を眺めたくなる。
京都は市内から30分もかからずにこういう場所に来られるということが、東京とはえらく違うところだ。
僕はだいたいいつも、ここから歩くコースが決まっていて、まず竹林。
このあたりの竹林はかなり広大で、いちど抜けたと思ったら、また新たな竹林が現れる。
中はひんやりとしていて気持ちがいい。
それから野宮神社に抜けて、お賽銭をあげてお参り。
ここから線路を渡って、ずっと上がっていくと、二尊院だの何だの、見るところもたくさんある。
二尊院から祇王寺へむかう道の途中に「お食事処こみち」という店があり、ここは僕の行きつけだ。
行きつけと言ってもまだこれで2回目。
ハンサムなマスターと美人の女将さんが、僕よりちょっと年下だと思うんだがすごくいい人たちで、こちらがひとりで酒をのみに入るといろいろと話し相手になってくれる。
前回も森嘉で豆腐を買うつもりだと言ったら、時間が微妙でなくなるといけないから電話しておいてあげると言って、わざわざ豆腐一丁を予約してくれた。
こちらもそのお礼をしなくちゃと思って行ったのだが、相手も覚えていてくれたみたいで、帰り際には「いつもありがとうございます」とも言われたから、これはもう立派に行きつけというものなのだ。
食ったのはニシンそばに冷や酒。
そばはちゃんとコシがあってきちんとうまい。
七味にくわえて山椒もかける。
そこからちょっと戻って、清凉寺をぬけて森嘉。
ここは嵯峨豆腐の代表店で、嵐山のめぼしい湯豆腐店ではここの豆腐を使っている。
檀一雄の「美味放浪記」でも、ここの豆腐を絶賛している。
昨日は豆腐にくわえてひろうずを3個買った。
晩めしは、この森嘉のひろうずをだしで炊いたのと、豆腐はそのまま冷奴にした。
ひろうずの中身はぎんなんと百合根、きくらげとにんじん。
だしをうどんのだし程度の濃さにしたのだけれど、それだとちょっと薄すぎたのが残念だった。
この写真ではわからないが、森嘉の豆腐はふつうの2丁分ほどもある巨大なもので、これはその3分の2の量。
「できれば今日中にお召し上がり下さい」と言われ、絶対にそれは無理だろうと思ったけれど、結局全部ぺろりと食べた。
絹ごしよりちょっと硬いかなというくらいの食べ応えなのだが、ひとことで言うと、これといって特徴がない。
だから、なんだ、ふつうじゃん、と思って食べ進むのだけれど、食べれば食べるほどうまくなってくるのだ。
味は濃すぎず薄すぎずで、変なクセのようなものが皆無。
いくら食べても食べ飽きないといった風情で、さすが王道とは、まさにこういうものなのだろうな。
ひろうずも同様。
3個はぺろりといけた。