東京に来た。いや東京は、とにかくだだっ広くて、人がたくさんいて、僕も東京で育って、40年にわたって住んでたわけだが、地方暮らしが身につくと、数時間いるだけで疲れるな。用があった蒲田から、大勝軒のラーメンを食べに東池袋に行くだけで、山手線を逆回りに乗ってしまったこともあるのだが、同じ都内なのに1時間半もかかった。ぐったりだ。疲れているのは僕だけじゃなく、東京の人はみな疲れている感じがする。電車でも行き帰りとも、隣の人が熟睡して、僕に寄っかかってきた。帰りはオネエちゃんだったからよかったけど。
電車や駅で、オネエちゃんもずいぶん見た。男は皆そうなのか、僕が特にそうなのか、僕は街でオネエちゃんを見るのが好きだ。きれいな、流行りの格好をしているオネエちゃんというのは、ただ見て心地がいいというだけじゃなく、その土地の感覚というものを、表しているところがあるように思うのだな。東京のオネエちゃんは、とにかく露出過多で、ビーチかと思うような格好をして、髪は前髪をつくらず、カルメン・マキみたいに、長い髪を真ん中で二つに分けているのだが、メークのせいなのか、全体としてマネキンみたいに見える子が多い。
ということで大勝軒。僕は東京に40年住んでいながら、東京にいたころはあまりラーメンに興味がなかったので、自分の行動範囲外のラーメン屋へ行くということはなかった。なので当然、大勝軒も初めてだ。
東池袋の本店に行くと、創業者のおいちゃんが、店の前に座り、お客さんにあいさつしてる。券売機で何を食べたらよいかまごまごしていると、親切に色々教えてくれるのだな。実際にラーメンを作るのは、弟子に任せているのだが、それでもこうやって店に出てくるというのは、お客さんの顔を見るのが好きなんだな、このおいちゃんは。
またこの生ビール、550円という普通の値段なのだが、けっこうな量のお通しが付いてくる。メンマにチャーシュー、白ネギを和えたもの。これがあれば、ギョウザなんかは頼む必要がない。このサービス精神なんだな、要は。
中華そば。700円。なるほどわかった。僕は勘違いをしていて、こってりした肉のだしに大量の煮干しが入ったスープや、太い麺、そしてもちろん、それをつけ麺にして食べること、ここ5年か10年の流行りなのかと思っていたが、そうじゃなかった。すべてこの大勝軒のおいちゃんが、見つけ、つくり出してきたものだったのだ。50年前からつけ麺を出していたわけだから、50年たって、ようやく時代がこのおいちゃんに追い付いてきたということなのだな。今の新しい店は、麺がもっと太かったり、煮干しがもっと強かったり、いろいろ個性はあるのだが、すべての要素は、この大勝軒のなかにある。すごいことだな。
大勝軒のラーメン、あえてポイントを上げるとすると、まずこってりとしていること、そして魚介だしを使った和風味であること、さらに麺が太く、量がまじ、というくらいたっぷりあることなのだが、たしかに僕が若いころ、あまりラーメンを食べなかったのは、この3点がなかったからとも言えるように思う。今でこそあっさりしたラーメンが好きな僕だが、欠食児童には、それでは物足りないのだよな。このおいちゃんはお客さんを見ながら、それまでのラーメンという枠にとらわれることなく、お客さんが好む味を、大胆に発明していったわけだ。そりゃお客さんから強く支持されるのも、当然のことだよな。
東池袋大勝軒 (
つけ麺 /
東池袋駅、
東池袋四丁目駅、
都電雑司ケ谷駅)
★★★★★ 5.0