今日のお好み焼きは、感動があった。
口コミサイトの広島市お好み焼きランキングで第三位、第一位はもう食べたし、第二位はちょっと遠いので、これは行ってみないと、と思って出かけてみた。
入り口はほんと、喫茶店みたい。
よくあるのれんもないし、のぼりも立っていない。
一時半近かったので、ランチタイムのピークは過ぎていたと思うが、それでもけっこう混んでいて、運よく鉄板前に座れたが、またすぐ人が来て満席になっていた。
中もちょっと喫茶店風の感じもあって、もともと喫茶店だった店をちょっとだけ改造してお好み焼き屋にしたのかもしれない。
マスターと、たぶん奥さん、それに娘さん、三人でやっていて、マスターはたぶん、脱サラしたのだろう。何となく内気な感じの人だったので、組織が性に合わなかったのかもしれない。
物件を選んだり内装を考えたりするのも、奥さんと娘さんの意見がかなり取り入れられているのかも、と思わせるような、そういう雰囲気の家族だった。
広島風のお好み焼きは、もともとみっちゃんという店の創業者が始めたやり方が他に広まっていったものらしく(参考)、基本的なパターンは共通している。そこでどう独自性を出しながら、客に支持され、商売として成り立つものにしていくかというのは、そう簡単なことではないだろう。
八昌はおそらく一つの方向として、じっくり時間をかけ、ていねいに作る、ということを選んだのだろう。時間をかけて蒸し焼きすることで、キャベツの甘みが引き出され、おいしくなる。
おいしくはなるのだが、席に座った客を30分待たせるわけだから、回転率は悪くなるって儲けは減るし、30分待っただけの価値を、客が感じなければいけない。
八昌はそれを、実際に本当においしいと感じさせるお好み焼きを作り続けることにより、ずらりと行列を作り出すことで克服している。
まぁほんとに腹のすわった勝負の仕方と言えると思う。
口コミ一位も、もっともな話である。
胡桃屋の場合、勝負のポイントは、調味料を使わない、というところにあると思う。
まず鉄板に生地を丸く伸ばし、かつお節の粉を振り掛ける。上にキャベツともやしをのせ、だいたいその時点でほとんどの店は、塩と、こしょうと、味の素と、さらに店によってはガーリックパウダーなどで味をつける。
しかし胡桃屋は何も入れない。
揚げ玉をのせ、三枚肉をのせ、ラードのかけらをのせて、ひっくり返して十分蒸し焼きにする。
同時にゆでたそば麺を鉄板に広げ、普通はこれにも、塩コショウ、味の素、場合によってはお好みソース、などで味をつける。
しかし胡桃屋はそれもしない。
そのまま蒸し焼きにした本体を上にのせ、さらに割り広げた卵の上に全体をのせ、ひっくり返し、お好みソース、こしょう、かつお節の粉、青のり、以上。
味の素は使わない。
好みで万能ねぎをのせられるよう、器ごと出してくれる。
キャベツに味をつけていないので、キャベツの滋味が口に広がり、ちょうどホクホクのふろふき大根を食べるような、そんな感じの味わいなのだ。ソースはきちんとかかっているから、全体の味は足りなくない。表面の濃い味と、中身の素材そのものの味と、両方をうまいこと楽しめるようになっている。
色々なお好み焼きを食べながら、正直ちょっと味が濃すぎるなと思うことも少なくなかった。また下手な店は、化学調味料を大量に使うので、舌がしびれて、あとあとまで嫌な後味が残るということもあった。
しかしこの店は、そういうことに対して一つのはっきりとした答えを打ち出している。お好み焼きというものについて、一つの新しい考え方を示しているのである。
食べながらマスターに、キャベツのうまみがほんとに出ていて、おいしいですね、と言ったら、そう言ってもらえると、自分の狙い通りです、と少し嬉しそうにしていた。
勘定を払いながら娘さんに、化学調味料はぜんぜん使ってないんでしょ、と聞いたら、そうなんです、うちはまったく使ってないんですよ、とちょっと力説していた。
胡桃屋のやり方、お好み焼きの正道からは多少外れるものなのだろう。しかしそれが評価されての口コミ堂々第三位、立派なものである。
胡桃屋 (くるみや)
広島県広島市中区八丁堀9-5 山本ビル2F
082-228-5915