2008-06-01
ブラッスリー・アブサン
飲食店は、もちろんまずは出された食べ物や飲み物がおいしくなくてはいけないわけだが、一回行くだけならともかく、通うようになるというと、それだけでは足りない。食べたり飲んだりするというのは、人間の楽しみのうちで最も大きいものだから、居心地の良い場所であるということが、とても大きい。居心地が良いというのは何かということは、けっこう難しい問題だと思うが、やはりオーナーが、それをどうとらえているのかということ、そしてスタッフが、それをどう生き生きと実現するのか、ということに尽きるのだと思う。
この店の建物はもともと、木造の民家だったものを、オーナーとオープニングのスタッフが自ら大工仕事をし、改造したものだ。手前には趣向が凝らされた個室があり、次にバーカウンター、奥にはダイニング・ホール。床を貼ったり壁を塗ったりということも、全部素人が、想いを込めてやっている。趣味が良いのかと聞かれると、何とも答えられないところがある。しかし実現したいと思う世界を、自分達で実現していったという、そのエネルギーを何とも強烈に感じさせる空間になっている。
ブラッスリー・アブサン ダイニングホール
物理的な空間だけではない。スタッフが自ら、建物の製作から関わっているから、自分がその場所をつくっていくための、欠かせない一員なのだという気持ちが、とても強い。名古屋の飲食店というのは、総じて店員の感じが良いのだが、その中でもここは特別だと思う。お客さんが楽しい時間を過ごしてくれるということを、心底自分の楽しみとして感じていて、そのための労力を惜しまない。一人で行けば話し相手になってくれるのはもちろん、知らないお客さん同士が、行き過ぎない範囲で、互いに言葉を交わすようになるため、橋渡しも厭わない。ぼくはこの店に一年ほど通ったが、転勤で名古屋を離れた今でも、連絡をくれたりして繋がっている人が、お客さんの中で何人もいる。この日もぼくが名古屋に久しぶりに帰るというので、皆集まってくれたのだった。
フランス料理は他で食べないので、味についてはちょっと比較できないところがある。しかしソースは言うまでもなく、マヨネーズから何から、すべて手作り。大変おいしい。手作りのジンジャーエールや、それにウォッカを混ぜたモスコミュールもある。久屋大通の駅から、真北に五分ほど歩いたところにある。名古屋に立ち寄った際には、ぜひ行ってみてほしい。
ブラッセリー・アブサン