広島の新天地には、「お好み村」という、二階から四階がすべてお好み焼き屋になっているビルがある。
ワンフロアに七、八軒、三フロアで二十軒以上、小さなお好み焼きやが軒を並べている。
鉄板を囲むカウンター席という形式で、どの店にもテーブル席はない。
乗った時点でぷーんとお好み焼きのにおいがするエレベーターで四階まで行き、一通り眺めて二階まで行ってみる。
面白いことにぎっしり満席の店と、お客が一人も入っていない店と、はっきりと分かれる。
土曜日だし、観光客など、普段はここにいない人が来ると思うので、味の違いではないだろう。
店主が男の場合、ぽつんとしていることが多く、おばちゃんの店がわりといっぱいになっているという印象だった。
満席の店の一つ、文ちゃん、へ行ってみる。
ここも店主はおばちゃん。この店と、その隣と、どちらにしようか迷っているときに、おばちゃんに呼び止められた。
お好み焼きは、普通においしい。
ところでこの写真の紅しょうがだが、普通はついていない。写真を撮ろうとしたら、わざわざ写真写りがきれいになるようにと、載せてくれたのだ。雑誌に掲載された記事が壁に貼ってあったが、それにも紅しょうがが載っていた。
たぶんこういう、ちょっとした配慮がうまいのだ。
その店におばちゃんは三人いて、一人は七十過ぎと思われる、たぶん創業者。そのほかに若い男性が一人。
創業者のおばちゃんは、お好み焼きはあまり焼かない。ほかの二人が焼くのを眺めながら、入り口近くにどかっと座って、お客と話をしたりしている。
あるとき若い男性が、女性二人に「いらっしゃい、どうぞ」と声をかけたが、二人は結局隣に入った。それを見て創業者のおばちゃんが、「入らない人に声をかけても、仕方ないだろう、びっくりしてかえってよそに行っちゃうよ」というようなことを、楽しそうに話していた。
実際そのおばちゃんが声をかけた人は、百発百中で入ってきていた。
声をかければ入るというものでもない。かえって緊張して、よそへ行ってしまう場合もある。しかし声をかけなければ、よそへ行ってしまう場合もあるだろう。
その辺のところ、簡単ではないのだろうが、おばちゃんは名人なのだろう。
また客とよく話し、独特の魅力をかもし出しているから、おばちゃん目当てにまた来る、というお客もいそうな気がする。
商売というものも本当に、人間そのものなのだなと、改めて思った。