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2012-05-08

「スペアリブのトマトシチュー(玉村豊男流)」


僕が料理に目覚めた頃、もう15年以上前になるんですが、大きく影響を受けた本があって、それが玉村豊男「料理の四面体」です。

それまではレシピを見て、その通りに買い物して、書いてある通りに作ることしかできなかったのが、だしを自分で取るようになり、それがきっかけで、料理を自分が思った通りに作る勇気がわき、料理の見方が180度変わった頃で、そんな僕のウキウキした気持ちに、「料理の四面体」は、なんともぴったり来るものだったんですね。



料理の本というと、どうしても「レシピ」が中心になり、料理の作り方を詳しく説明した本は、山ほど出ているわけですが、「料理」そのものについて考察したものは、意外に少ない。

料理は人間にとって、最大の文化であるといっても過言ではないものなのに、その「文化としての料理」に言及したものは、ほとんどないと言ってもいいのではないかと思うんですよね。

その数少ない、料理の文化論を展開したものが、「料理の四面体」だといえると思うんです。



玉村豊男は学生の頃言語学を勉強して、それで「構造主義」に触れているんですね。

構造主義は、すべての文化が、理由なく偶然生み出されたものではなく、それぞれの文化なりの、構造や秩序をもっているものだと主張して、さまざまな文化を理解するための、スタンダードな方法となったものです。

多くの人が、自分の国の言語や文化、さらには未開の土地へ出かけていって、その土地の言語や文化を、構造主義の方法をもちいて、理解しようとしていったわけですけれど、玉村豊男は、それを「料理」というところに応用していった。



もともと料理には、興味がある人だったんでしょう。

パリに留学している時に、フランス料理を学び、またアフリカなどを放浪しながら、各地の料理を食べ歩くうちに、玉村はある結論に達した。

それは、

「一見異なって見えるさまざまな料理は、『料理法』という観点から見ると、おなじものである」

というものです。

まあしかしこれは、ただ単に構造主義のお題目を、そのまま料理に当てはめたというだけで、玉村が心底実感し、見つけ出したものとはちがうとは思いますが、でも現在、料理について、そのようなことを言う人が少ないので、それなりに面白いのは確かです。



「料理の四面体」の内容については、また機会があれば、ここに書きたいと思っていますが、今改めてこの本を読み返していて、「やはりいいな」と思うことは、冒頭に紹介される料理が、いかにもおいしそうなんですよね。

それは玉村が、アルジェリアで教わった料理です。



玉村は、どういう事情があったか知りませんが、アルジェリア南部の、サハラ砂漠に近いところをほっつき歩いていたそうです。

リュックひとつでヒッチハイクをしながら、アルジェリアからチュニジアに抜けようとしていた。

潅木がわずかに生えているだけの荒れ野をとぼとぼと歩いていたら、ピクニックの支度をしているアルジェリア人に呼び止められた。

「いっしょに飯を食わないか」というわけです。



玉村は、その時アルジェリア人が料理をしたやり方を、詳しく書いているのですが、これが奮っている。

炭火をおこした七輪のようなコンロに、ペコペコにゆがんだアルミの深鍋をかけ、大きな瓶から黄色い濃厚なオリーブオイルをどぼどぼと注ぐ。

ニンニクを取り出して、小刀で削って、まるまる1個分をそこに入れる。

煮え立ってきた油が、ニンニクの香りをあたり一面に漂わせはじめた頃に、ぶつ切りにされた、骨付きの羊肉を鍋に放り込む。

鍋ごと揺さぶって、肉を炒めたかと思ったら、かなりの量の、真っ赤な唐辛子の粉をふりかける。

そうしたら、真っ赤に熟したトマトを3つ4つ取り出して、手で握りつぶして鍋に入れる。

ジャガイモを小刀で皮をむき、4つに切って放り込む。

塩を2つまみほどふり入れて、フタをして、30~40分ほどとろ火でコトコト煮たら、「羊肉のアルジェリア式シチュー」の出来あがり。



玉村は、このアルジェリア式シチューが、ヨーロッパの料理の原型ともいえるものだと、「料理の四面体」で論じていくわけなんですが、それはともかくとして、この料理のやり方が、いかにも解放的で、おいしそうに見えるんですよね。

それで今日は、これを真似て、「スペアリブのトマトシチュー」を作ってみたというわけなんです。




羊の肉は、スーパーなどではなかなか手に入りませんから、代わりに豚のスペアリブ。これは男子1人前としては、300グラム。300グラムといっても、スペアリブは骨の重さがありますから、肉の重さは200グラムにもなりません。

ジャガイモは、新じゃがの小さなのを使いましたので、4個。でも大きなのなら1~2個を、玉村が書いている通り4等分にするのがいいですね。

ニンニクは、たっぷり3かけ。でもニンニクがそれほど好きでないのなら、1かけくらいでも別にかまいません。

トマトは、日本では完熟トマトはなかなか売っていませんし、値段のことを考えてもトマト缶。

オリーブオイルと塩、それにこの写真に写すのを忘れましたが、唐辛子。

韓国の粉唐辛子があったので、それをスプーンで山盛り2杯くらい入れましたが、べつにふつうの唐辛子を2~3本、輪切りにしてもいいと思います。



オリーブオイルを、中火にかけたフライパンに「どぼどぼ」と入れ、ニンニクを入れる。ニンニクの香りが立ってきたら、スペアリブを入れる。

箸やへらを使うのでなく、鍋を揺すって肉の方向を変えながら、全部の面に、こんがり焦げ目がつくまで5分ほど炒めます。



唐辛子を入れ、やはり鍋を揺すってすこし火を通したら、トマト缶を注ぎ込む。

塩を2つまみ、これはだいたい、小さじ1杯くらいという意味ですが、でも計量スプーンなどでは計らずに、あくまで手でつまみ入れ、じゃがいもを入れたらフタをして、火はとろ火に落とし、30~40分、コトコトと煮る。

ジャガイモやスペアリブが、煮汁から多少顔を出したとしても、あまり気にすることはありません。





というわけで、出来あがったトマトシチュー。

これはうまかったです。

トマト煮には普通入れる、白ワインも、ローリエも、コショウやパセリ、タイムやオレガノも、なにも入れないのに、深いコクがあり、十分おいしい。

いやむしろ、余計なものをあれこれ入れないほうが、おいしいのかもしれません。

ニンニクが、すこし焦げた風味がするのも、また味わいを深くしています。



かなりオイリー&ニンニクたっぷりなので、そういうのがあまり好きでない人は、ちょっと考えた方がいいかもしれませんが、オリーブオイルですから、腹にもたれるということもありませんでした。

豚肉の煮時間としては、30~40分は短めですが、固いということもありません。

これは大変オススメですので、ぜひやってみてもらえたらと思います。





酒は焼酎お湯割り。

これも非常にイケました。