2012-06-13
「中華風肉豆腐」
今日は中華風肉豆腐とキュウリの浅漬、じゃこおろしで、焼酎の水割り。
このところ魚が続いたから、肉を食べたい気持ちになったのだけれど、思い浮かぶのは肉豆腐。
なんでそんなに肉豆腐が好きなんだ。
豚肉をいれる関東風の肉豆腐、和風にやろうと思ったら、出しを使わないといけない。
でもニンニクで風味をつけて中華風に仕上げれば、出しを使わなくても、豚肉のうまみだけで、ちょうどラーメンスープのようにおいしくできる。
あとは冷蔵庫にあまっている青ねぎと、シイタケをいれることにした。
木綿豆腐を皿にのせ、水切りしておく。
フライパンに油をひいて、中火にかけ、フライパンを手前に傾けて角のところに油をため、たたきつぶしたニンニクを、茶色くなるまで揚げる。
ニンニクを捨て、豚のこま肉を強火で炒め、肉に火が通ったら、酒と(うすくち)しょうゆ各大さじ2くらいをいれ、ひと煮して肉に味をつけたら、水1カップくらいをいれる。
おろしショウガを少しいれ、豆腐から水気が出てくるのを見越して塩で強めに味をつけ、豆腐とシイタケを、落としブタをしてコトコト10分くらい煮る。
さらに青ねぎをいれ、青ねぎがやわらかくなったら、水溶き片栗粉でとろみをつければ出来あがり。
コショウをふって食べる。
京都風のやわらかい木綿豆腐を使ったから、煮ているうちに粉々になってしまったけれど、味はうまい。
もうちょっと固めの豆腐を使うか、逆に絹ごし豆腐を使って思い切りくずしてしまうようにしても、またおいしいかもしれないなとおもった。
今日も千円札1枚をポケットにねじ込んで、夜の散歩に家をでた僕は、
「いつもとは違う方角へいってみよう・・・」
と思い立った。
蛸薬師通を東へいき、大宮通を北にあがる。
やがて交差する三条会商店街を、以前は西へいったから、今度は東へいってみる。
深夜12時過ぎの三条会商店街は、いつもいく魚屋も豆腐屋も店をしめ、アーケードの電気も消え、人もあまり歩いていない。
僕は歩きながら、
「このあたりには、こんな時間にあいてる店はないだろう・・・」
とおもうけれども、そのままっすぐ三条会商店街をぬけ、堀川通を北にあがる。
こういうとき、僕が夢見るのは、裏通りにあるバー。
住宅地でひっそりと朝まで営業し、夜の徘徊者に酒を1杯のませてくれる。
できれば30歳くらいのかわいいママがいて、
「おかえりなさい、お待ちしてました・・・」
などと迎えてくれるということない。
そんな店が都合よく見つかるわけがないとおもいながらも、左右の裏通りに目を凝らしながら堀川通を歩いていくと・・・。
「あった・・・」
通りから入った路地の先に、暗闇を小さく照らす白い看板。
近付いていくと、看板には「Bar」の文字、営業時間は朝の5時まで。
あいたドアから中をのぞくと、カウンター席もあるらしい。お客さんは誰もいなくて、バーテンがカウンターのなかで座っている。
僕はあけられたドアから、店の中へはいっていった。
残念ながら、店主はかわいいママではなく、ガタイのいい青年。
顔の左右に下がったまん中分けした前髪が、耳の下あたりで直角に切れ、ちょうど赤胴鈴之助みたいになっている。
「変わった髪型だ」とおもうけれども、今はNHKのアナウンサーだって、若い人たちはふつうのシチサンになど分けたりしない時代なのだから、バーのマスターが赤胴鈴之助であったって、べつにおかしくないとおもいなおす。
「千円でのめますか」ときいたら大丈夫だというから、カウンターの端に座って、一番安いウイスキー700円をたのんだ。
四条大宮にくらべれば高いけれど、べつに高すぎることもない。
僕が名古屋にもいたことがあると言ったら、それから「あんかけパスタ」の話で盛り上がった。
まだ名古屋へは行ったことがないというマスター、ここ数日の店の会話でなぜか名古屋の話になることが多く、「あんかけパスタを食べてみろ」と言われているのだけれど、それがどんな食べ物なのか、不思議におもっていたそうだ。
僕はしっかり、マスターにあんかけパスタについてのレクチャーをし、さらに二条駅前の「コメダ珈琲店」で、やはり名古屋の不思議な食べ物「シロノワール」が食べられることも教えてあげた。
名古屋の話がひとしきり済んだころ、お客さんがはいってきた。
「私ここの店、自分の家みたいにしとるし・・・」
と言いながらはいってきたのは、
「若い女性だ・・・」
年の頃は40くらい、昔の歌手「杏里」にも似ていると僕にはおもえる、すらっとした長い髪の美人。
薄いグレーの、薄手のパンツスーツを着て、ちょっと業界関係者風にもみえる。
僕とは反対側のカウンターの端に座り、赤ワインを注文した。
さすがこのあたりは客層がちがう。四条大宮の飲み屋では、こんなしゃれた女性はみたことない・・・。
それからしばらくは、マスターが店の料理のことやら、調理場の換気扇のことやらを話すのを、相槌を打ちながら聞いていた。
マスターがしゃべってくれるから、初対面のお客さんといっしょにいても、それぞれになんとなく居場所がある。
僕は度を越してしゃべらないよう、また女性をチラ見したりしないよう気を付けながら、マスターとの会話に参加した。
やがて僕は、ウイスキーをのみ終わり、マスターの話が一段落したのを機に、お勘定をしてもらうことにした。
マスターが奥の厨房へ伝票を書きにいき、女性と2人きりになったので、僕はちょっと、女性に話しかけてみた。
「ここはよく来られるんですか」
「ええ、そうなんですよ。今夜はもうお帰りなんですか、明日はお仕事が早いのでしょうね」
「僕は自由業ですから、朝は何時でも関係ないんですよ」
「そうなんですか、それじゃあいかがです、もう1杯くらい・・・」
「誘われた・・・」
女性から酒を誘われるなどあまり経験がない僕は、おもわず動揺してしまったけれど、しかし僕は、ポケットに千円札1枚だけをねじ込んで家を出てきている。
「金がない・・・」
しどろもどろになりながら言い訳をし、お金を払って店をでた。
家に帰り、布団にはいっても、まだすこしドキドキした。