まずはイカと里芋の炒め煮。定番のイカと里芋は、煮付けるより炒め煮にしたほうが、だしも必要なく手早くできる。あとはカブと揚げのあんかけ汁。それから大量に余っているカブや大根の葉と皮を使ってじゃこ炒め。
イカと里芋を煮付けるには、まずだしをとり、それから里芋を下ゆでして・・・、という手順が必要になるが、炒め煮の場合はそれはまったく省略できる。
皮をむき、1センチ角ほどの拍子木に切った里芋を、心持ち多めのゴマ油を引き、中火でじっくり、やわらかくなるまで炒める。
里芋に火が通ったら火加減を強火にし、タネを抜き、小さくちぎった鷹の爪と、胴は輪切り、ゲソはぶつ切りにしたスルメイカをサッと炒める。
火加減は強火のまま、水を3/4カップほど加え、イカのだしが出るまで1~2分煮る。
つづいて砂糖と日本酒、みりんをそれぞれ大さじ2ずつ入れ、さらに1~2分煮て味を含ませる。
しょうゆを大さじ1、ややおいてさらに大さじ1入れる。しょうゆを初めから全部入れてしまうと、甘みが中に入らない。
イカは火を長く通しすぎると固くなるので、火加減は一貫して強火、5分くらいのあいだに煮汁をほぼすべて煮詰めてしまうようにする。
最後に小さじ1の酢を加えて全体をまぜ、器に盛って青ねぎをかける。
ホクホクの里芋とプリプリのイカは、言わずと知れた黄金のとり合わせ。
次はカブと揚げのあんかけ汁。
吸い物の味をつけただしでカブと揚げ、小口に切ったカブの茎を煮、水溶き片栗粉でトロミをつける。
ほっくりとやわらかなカブと揚げの相性は最高。
冷蔵庫にとってあったカブや大根の皮や葉は、片っぱしからざく切りにする。
ゴマ油で炒めたら、ちぎった鷹の爪とちりめんじゃこを加え、しょうゆで味付け。
酒の肴にもご飯のおかずにもなる常備菜。
松嶋菜々子がぼくの前に姿を現すようになってから、そろそろ1ヶ月ほどが経つ。
初めのうちは、なぜ東京で反町隆史と結婚しているはずの松嶋菜々子が
ぼくの居所をたくみに嗅ぎ当て、訪ねてくるのか疑問に思っていた。
でもそんなのは、どうでもいいことだ。
松嶋菜々子には松嶋菜々子の事情があるのだから、それをいちいち詮索する必要もない。
昨日も四条大宮のバーKajuで、マスターを相手に熱燗を1杯飲んでいたら、
松嶋菜々子が現れた。
寒くなった京都で、白のダッフルコートにオレンジのトックリを着た
背の高い松嶋菜々子は、Kajuに入ってきて後ろ手でドアを閉めると、
ポケットに入れていた手をハーと息をかけてこすり合わせながら、
マスターとぼくに
「寒いですねえ」
という。
「京都はまた、東京とくらべると、一段と冷えるでしょう」
と声をかけるマスターに、
「ほんとですねえ。やはり盆地だからでしょうか」
と答える。
ぼくは正直に告白すると、松嶋菜々子に恋心を持ちはじめている。
背が高く、顔が小さい松嶋菜々子は、ぼくの好みにピッタリだ。
普段はツンと澄ましているが、笑うと愛くるしいところもいい。
実際のところ、松嶋菜々子がこれほどぼくの居場所を突き止めて訪ねてくるのは、
松嶋菜々子ももしかしたら、ぼくに気があるのではないかと思わないこともない。
でもそんなことをおくびにでも出せば、馬鹿にされるのは目に見えているから、
ぼくはあまり関心がない風を装いながら、熱燗の入ったグラスを口に運んだ。
カウンターの奥に座るぼくの隣に腰掛け、マスターにラム酒のロックを頼んだ
松嶋菜々子は、ぼくと乾杯し、ひと口飲むと、グラスをカウンターに置き、
それを両手で持ちながら下を向いた。
ほかにお客はいないKajuの店内で、お湯が沸く音だけがちんちんと聞こえる
無言のときがながれる。
松嶋菜々子は顔を上げ、マスターの方へ向き直ると、思いを決めたように口を開いた。
「実は旦那が、反町が・・・、浮気してるんです。」
あまりの唐突な告白に、マスターもぼくも、何と言ったらよいのかわからない。
「興信所で調べてもらったので、間違いないんです。
それで色々考えて・・・。
私という妻がありながらと思う反面、男の人は仕方がないのかなと
思うところもあって・・・。
マスターや高野さんは、そのあたりのことどう思うか聞いてみたくて、
今日は来てみたわけなんです・・・」
(つづく)
「おっさんアホだねー。」
まったく。