今はほんとにカブが旬真っ盛りだから、カブを食べずして何を食べるのかということになる。浅漬けはもちろんのことだけれど、カブは肉や魚のうまみを吸って、やわらかくなったのがうまい。そこで鶏肉といっしょに蒸すことにする。味付けは塩だけにして、ポン酢で食べる。
蒸し物をするには蒸し器はいらず、大きめの鍋に水を張り、そこに直接皿を入れてしまえばいい。
今回の蒸し時間は15分だから、水は2カップも入れれば十分。
深めの皿にまず厚めに皮を向き、大きければ8等分、小さければ4等分にしたカブの実を入れる。
カブが鶏肉から出てくるうまみの汁にしっかり浸かるよう、皿の一番下に入れるのがポイント。その上にざく切りにしたカブの葉、石づきをとって房に分けたしめじをのせ、最後に塩少々をすり込み、食べやすい大きさに切った鶏もも肉をのせる。
鍋を火にかけ、沸騰してから中火で15分蒸す。
皿がこんもりし過ぎてフタが閉まらない場合は、こんなことをしてもいい。
蒸し上がったカブと鶏肉。
この鶏から出たうまみの汁を、カブがたっぷりと吸っている。
ポン酢に一味をふって食べる。
ホクホク。
昨日はスピナーズで出版記念パーティーの打ち合わせ。
キム君とぼく、それに熊の男性でするはずだったが、
熊の男性が遅れている。
入り口に人影が現れ、ようやく来たかと思ったら、
それは熊の男性ではなく、いたずらっ子のような顔をした松嶋菜々子だった。
「今日あたり打ち合わせするんじゃないかと思って、来てみました。」
ハキハキとした物言いで、松嶋菜々子は言う。
「それじゃあ松嶋さんも来てくれたし、早速始めましょう。」
キム君が仕切りを開始した。
まずはタイムテーブル。
19時スタートで、いちおう22時にはひと区切りになるようにする。
人が集まったらぼくがひとこと話し、
その後は本の販売とサイン会。
カウンターにはぼくが作った料理をならべ、
本を買ってくれた人には食べてもらえるようにする。
隅にサイン用のテーブルを用意して、
そこでぼくはサインをする。
「高野さんの実演調理は、いつやるんですか。」
と松嶋菜々子。
「いつにしましょうか。」
とキム君。
「やっぱり終盤の盛り上がりにしたほうがいいんでしょかね。」
とぼく。
実演調理は21時からと決まった。
そこへ、九十九一が来た。
クールな九十九一は、初対面の松嶋菜々子を見ても動じることなく、
無言のままカウンターの椅子にすわる。
「ねえ、九十九さんにギターを弾いてもらうのはどうかしら。
九十九さんがギターが上手いって、私高野さんのブログを見て知っています。」
松嶋菜々子が言った。
「いやそんな、今回は高野さんが主役の会ですから、
私なんかが出ても邪魔なだけですよ。」
と九十九一。
「それじゃあ、高野さんが『おっさんひとり飯』の歌を作詞して、
それを九十九さんが歌うっていうのはどう?
それなら出版記念パーティーにふさわしいんじゃないかしら。」
と松嶋菜々子。
「いいですねー、それぜひやりましょうよ。」
とキム君。
そこでぼくは、急遽「おっさんひとり飯」の
ブルースバージョンとフォークバージョンを作詞して、
それを当日、九十九一が即興で歌うことになった。
「楽しみだなあ、私明日、オシャレして来ちゃおう。」
松嶋菜々子は目をキラキラとさせながら言う。
「松嶋さん、ドタキャンとかは、なしにしてくださいよ。」
キム君が念を押す。
主役が泥酔したらシャレにならないもんな。