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2012-12-03

常夜鍋

今日の晩酌は・・・。
一人鍋といえばやはりこれ、常夜鍋(じょうやなべ)。豚肉とほうれん草を水炊きにしてポン酢で食べるこの料理は、元々魯山人が紹介したものらしく、同じ読みで「宵夜鍋」という、中国に起源をもつもののようだ。「宵夜」は中国語で「夜食」の意味らしい。





ほうれん草は、魯山人は生のまま入れるとしているけれど、それだとアクが出て汁がダメになるので、サッと下ゆでする。
面倒でも一茎ずつ入れ、沸騰を止めないようにしながら煮たほうが、エグミが出ずうまい。下ゆでしたら水にとってしぼり、食べやすい大きさに切る。





豚肉はコマ肉。
コマ肉は日本産だから、下手なアメリカ産のロース肉より味がいい。





鍋をはじめる前に、まずは小さなツマミで一杯飲む。






鍋に水を張り、昆布を入れて中火にかける。
沸騰したら昆布はとり出し、日本酒1カップくらいを入れる。





あとは豚肉を1回に食べる分だけ、沸騰するかしないかくらいの火加減で煮て、豚肉の色が変わったらほうれん草を、これも食べる分だけ入れ温める。






ポン酢に一味唐辛子を振り込んだタレで食べる。
豚肉とほうれん草は、言わずと知れた黄金のコンビ。





残った汁は、塩コショウで味つけしてうどんを煮る。











普段は家で飲むと2~3杯も飲めば眠くなるのに、昨日は飲むほどに目が冴えてきてしまったから、Kajuへ出かけることにした。
早い時間や遅い時間のKajuはわりと静かで、マスターとゆっくり話ができるのがいい。

Kajuへ行ったら、熊の男性がいた。
熊の男性は、いつもはスピナーズにいることが多いけれど、スピナーズが休みの日には、Kajuにいることもある。



マスターに焼酎のお湯割りをたのみ、熊の男性と乾杯して飲み始めたぼくは、ふとある予感がした。

「今夜も松嶋菜々子が来るのではないか・・・」

予感は的中した。

Kajuの分厚い木のドアがゆっくりとひらくと、ドアのすき間から目をクリっとさせ、いたずらっぽい表情をした松嶋菜々子が顔をのぞかせた。



「まだやってますか。」

おずおずと尋ねる松嶋菜々子に、

「どうぞどうぞ、お入りください。」

マスターは愛想よく答える。

熊の男性は、初めて会う松嶋菜々子に緊張し、目を大きく見ひらいて下を向き、顔を何度もこすっている。



松嶋菜々子は、熊の男性が持参した、12月7日スピナーズでの出版記念パーティーのフライヤーに目をとめた。

「あ、これがそのフライヤーなんですね。楽しみだなあ。高野さん、料理は何を作られるんですか。」

「まだちゃんと決めていないんですが、檀一雄レシピのイカのスペイン風はやろうと思っています。カセットコンロを持ち込んで、調理の実演もするつもりなんですよ。」

「そうなんですか。高野さんが料理を作っているところを見られるなんて、最高ですね。」



注文したラム酒のロックにゆっくりと口をつけながら、松嶋菜々子はさらに続ける。

「私、実は料理が苦手だったんですよ。でも高野さんの本を見ていたら、『私にもできそうかな』って思えるようになって・・・」





「はいはい、妄想はそのくらいでけっこうです。」
すまん。